「悲愴」を聞く際の必須アイテムと考えるミニチュア・スコア
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交響曲などのオーケストラの演奏を聴く際に、ミニチュア・スコアを片手に音楽を聴きますと、各パートの動きや曲の構成がはっきりと理解できますので、曲を深く理解するためによくスコア・リーディングをお勧めしています。
指揮者や交響楽団による解釈や演奏の違いもただ音楽を聴くだけでなく、楽譜を丹念に追うことで解釈の違いや音楽観までも捉えられるようになります。
この音楽之友社のスコアは、千葉潤氏による丁寧な解説がありますし、版の形も以前のものよりも大きいA5判となっていますので、「悲愴」のような大きな編成の交響曲を知るにはよい配慮だと思います。
「悲愴」は人生の哀しみと希望を音楽の中に主題として持ちこんだ交響曲です。暗い情感を持った第1楽章と第4楽章はこの交響曲の山場でもあります。一方、第2楽章の5拍子という変拍子は,2拍子+3拍子が合わさったもので,少し不安定な感じすることで人生の危うさや振幅の揺れを感じさせるものだと理解しています。第3楽章は、スケルツォと行進曲の反復なのですが、この勇ましさの後に、第4楽章が控えているわけでその落差は激しいものがあります。
「悲しみ」は人類共通の感情です。フォン・メック夫人への思慕、アントニーナ・イヴァノヴナ・ミリュコーヴァとの不幸な結婚と破綻など、実に人間くさい生き様をした大作曲家の畢竟の交響曲ですから、スコアに書かれている音楽からそのような感情を描き出せるか、で好みは別れそうです。チェイコフスキーが「悲愴」の初演指揮の数日後に急死したことと合わせていつもこの曲に込められた思いを聴き取るようにしています。