原節子を知るに適当な書
★★★☆☆
特に秀でた本ではないと思うが、私のように原節子を銀幕上で見たことのない年代にとっては読みやすく有りがたい伝記であった。自分に素直に正直に生きてしかも欲の無い人。欲が無い故に女優としての素養を身につけることが出来なかった不器用な人。ということが良く分った。
私は原節子をスクリーンで見たのは「日本誕生」の天照大神だけだものね。それとリバイバルで見た「ハワイ・マレー沖海戦」だ。「東京物語」とか「麦秋」はDVDだけ。大方の御意見通り演技派ではないけど、役にはまったら結構いい味をだしてる。印象としていつも笑ってるという感じ。あんなに幸せな人生を送れる人が実際にいるんかな、と思いたくなるほど、いままで映画で見た原節子は笑ってる。何故かこの本を読んで納得できるような気がした。
引退後表に姿を見せないのも「良し」です。あの人は今、的にカメラの前に今でて来られたら、困るのは我々のほうだから。出てこない決心をされているのは「女優」を捨てても心でいまだに「女優」でおられるからではないでしょうか。立派です。
1920年生まれの自立の女性。
★★★★☆
原節子さんの作品を数本しか見ていない者がいうのは烏滸がましいが原さんは自立の強い意志を持って伸びやかに生きて来た人だと思う。42歳で自ら女優人生に幕を引いたのももちろん意思的な行為であろう。だから、その後の彼女を追っかけたり、詮索するのは全くナンセンスだ。この本の筆者はこの間の消息をよく心得て、ひかえめな筆致で原さんの映画人生をたどっている。、筆者の憶測や独断を排除して、原さん自身の言葉や周辺の人の証言から構成されている本書は近年好感のもてる一書である。
「伝説の女優」とつきあうための新しい手引書
★★★★☆
原節子を語るのは危険だ。
ファンの一人ひとりの「想い」があんまりにも大きいので、
何を書いても、不満に思われる可能性がある。
だけど書きたくなるのがファン心理というもの。
原節子は無欲の人のように思われて、
ものすごい野心的なことを試みていたのだと思う。
それは、映画の中で、
「演技の巧拙をこえた人間性を映しだそうとした」
ことだと私は思う。
出演作は百を超えているらしいけど、
現在も簡単に見られる作品はそれほど多くはない。
原節子を見るためだけに出演作を追いかけると、
案外日本を代表する監督が網羅できる。
この本をきっかけに
「伝説の女優」と付き合ってみることをお勧めしたくなる一冊。
原節子本人だけでなく、関係者からの
インタビューの言葉の引用も、
面白く読ませてもらった。
ただ、一つ、
なんか文章が硬いというか、
「です」「ます」調が物足りない。
というか、
下手な学生の論文みたいな文章なんだよね。
「作家」の文章じゃない。
そこだけが引っ掛かります。
会田昌江→原節子→会田昌江の個人史・邦画の歩みを追った力作。
★★★★★
多数の本や雑誌、新聞記事・連載から本人の言葉、あるいは彼女を評した監督や共演者等の言葉を集め、出演作の台詞や著者の映画評等も交えて、生い立ちから現在に至るまでの原節子の生涯を邦画の栄光の時代史とともに描く力作だ。
本編50章、各章平均5頁。わが青春に悔なしが30章。戦前・戦中の彼女の足跡も丹念に追っている。
美貌(写真で十分窺える)でスターになったが、演技は拙く女優であることに自信がなかった戦前、食糧難の時代のなりふりかまわぬ買い出し、黒澤明を始め名監督との出会いを通じて、芸幅は狭いかもしれないが演技力を高め、女優としての矜持を持ち、読書以外にビールや麻雀も楽しむようになった戦後。しかし、水着拒否が示すように自分のスタイルを貫き通し、適役が少なくなると映画界から身を引いた。美貌だけが注目され、女優人生の末路は哀れだった入江たか子との対比が興味深い。わが青春に悔なしでのピアノ演奏場面に着目した評も面白い。女優・原節子の資質を見抜く関係者の慧眼も凄い。
世話になったとしている先行2冊との異同は不明だが、この1冊で彼女の女優史は掴める。東京物語等をまた観たくなる本だ。