市民の愛着、自治意識
★★★★☆
市民のプライド。直訳すればこのような意味になる「シビックプライド」は市民が都市に対して抱く誇りや愛着心のことだが、自らが都市の一部であるという自治意識でもある。特に都市間競争が激化してる昨今において都市の差別化が求められており、その差別化の鍵が市民による自治意識、シビックプライドなのである。都市がこの自治意識を発展させるには、都市と市民、そして市民同士のコミュニケーションが必要で、そのコミュニケーションを仲介するメディアによるデザイン力が決定的になります。
本書ではシビックプライドの醸成に成功しているヨーロッパ8都市を紹介し、広告、Web・映像、ロゴ、ワークショップ、都市情報センター、フード・グッズ、イベント、公共空間、景観・建築の8つの観点からデザインを検討していきます。印象的なロゴ「I amsterdam」と都市写真集によってシビックプライドを形成しているアムステルダム、地区開発プロジェクトを模型でリアルに示して開発に市民参加を実現しているハンブルク、わかりやすいマップや統合的な情報デザインによって「分かりやすい都市」を標榜するプリストル、中心市街地再生マスタープランを映像化して市民に効果的に発信・波及させているブラッドフォードなど、様々な手法のコミュニケーションデザインが詳細に紹介されています。
本書の大部分は各都市のシビックプライドの取り組み紹介です。鮮やかなフルカラーで丁寧にデザインされた紙面はとても美しく、また見やすく、デザインの大切さを直感的にも知ることができます。また、後半50ページほどにシビックプライドについての論考が掲載されています。デザインは思想を視覚的に伝える手段である、市民による双方向のパブリックライフが都市生活の喜びをもたらす、などなど興味深いテーマが多い。全体としてメディア側の取り組みばかりが掲載されており、市民の意志や姿が見えにくいのが欠点ですが、まだ日本では重視されていない都市コミュニケーション・デザインの重要性を提起した功績は大きいと思います。