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中世農民の世界―甦るプリュム修道院所領明細帳 (世界歴史選書)

価格: ¥2,808
カテゴリ: 単行本
ブランド: 岩波書店
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古典荘園制下での経済発展の態様 ★★★★☆
それを示すのがエピローグでの次の叙述である。

「そして第II部では、この史料(=修道院所領明細帳)が農民経済の動態を垣間見せてくれる場を三つ取り上げて、テキストを仔細に解釈しながら可能な限り印象的な例示を試みた。その第一は、具体化と定量化によって農民経営に安定的な労働力基板を残していた賦役労働。第二は、一マンス=一家族という標準を軸に耐えざる変動を示しながらも、生成してくる小規模単位を含めて農民経営に安定的な土地基盤を提供していたマンス制度。そして第三は、農民による運搬賦役を土台に修道院によって組織された流通のうちから生み出されてくる、商品・貨幣流通と都市であった」
(225頁)

古典荘園制は中世初期の経済発展の障害物となっていたのではない。

むしろ経済発展を促進する役割を担っていた。それを最も先鋭的に示しているのが古典荘園制下での商品・貨幣流通と都市の発展である。

これによって、従来までの「暗黒の中世」といった中世初期のイメージは払拭される。

こういった本書の主なメッセージを見ると、本書が「農奴制か奴隷制か」のような単純な二項対立を論点として提示していないことは明らかである。本書が二項対立を主な論点として提示しているというのであれば、その根拠を明示すべきではないか。

個々の文章が他の一般書と比較して長い。そのため、一般書としては星一つ減点とした。
新しい酒を古い革袋に入れるな ★★★☆☆
893年、カロリング朝西フランク王国下のプリュム修道院(現ドイツ西部)において所領明細帳が作成された。原本は失われたが、1222年にプリュム修道院の元院長であったカエサリウスが筆写したものが現存している。本書は、このカエサリウス写本に沈潜し、その徹底的な分析を通じてヨーロッパ中世初期社会経済史の豊かな実像を提示せんと試みたものである。著者はヨーロッパでも著名な西洋中世史の権威らしい。

「個々の文書の真偽鑑定に重点を置き、その作業を通じてする原本の再現こそが史料批判の最終目的だとしがち」な従来の史料学から訣別した、「現在われわれが史料として利用しようとする書面が経てきた様々な姿と実際に果たしてきた多様な機能を、可能な限りその現場で具体的に再現していこうとする姿勢」に基づいて展開される、第T部におけるプリュム修道院所領明細帳の綿密な考証はたいへん説得的。


しかし第1部における先鋭的な史料論を前提に活き活きと描き出されるはずの第2部「プリュム修道院領の農民経済」の叙述は意外と凡庸というか保守的で、戸惑いを感じてしまう。長らく通説だった停滞論への反発は良く分かるのだが、今時「奴隷制か農奴制か」「領主制説か共同体説か」という議論はあまりに古すぎないだろうか? 貨幣経済や都市に関する理解も古典的に思える。