独善に過ぎるかな
★★★☆☆
浅見光彦シリーズです
全て読ませてもらっているこのシリーズですが、今作は自分の嫌いなパターンの作品でした
浅見光彦は兄こそ警察庁刑事局長ですが、警察関係者ではありません
だからこそ彼には犯罪者に対して法を適用する必要は無いのです
要するに必ずしも犯罪者を摘発する必要が無いということです
犯罪者の心理と行動が十分に同情に値するものであれば、
そしてその犯罪者が十分に自分の犯罪と向き合っているのならば、
それを自分の胸にしまっておくだけで十分だと思うのです
にもかかわらず
犯罪を犯さざるを得なかった十二分に同情の余地のある人を
司直の手ではないにせよ追い込んでしまった事件が過去にどれだけあったことでしょう
犯罪は裁き方こそ違えど全て裁かれなければならないなどという
極めて偽善的ないまや愚かといっていい道徳に
何故、浅見光彦がとらわれてしまうのか
その偽善的としか思えない態度に共感を得られなかったことが少なくありません
そんな浅見光彦が、
同情の余地は無いと思われる犯罪者に自分で自分を裁く道を選ばせたわけです
事件の背景からそのこと自体は納得できます
ですが、
犯罪者に同情する余地が無いにもかかわらず
事後の対応への心配をかけたくないからという独善に過ぎる理由で
真相を依頼者にも告げませんでした
いかな名探偵といえども、ひとかど以上の成功者に対して思いあがりも甚だしい
といえるのではないでしょうか
今作の浅見光彦は極めて独善的な人間になってしまっていました
とても残念です
理想的家族像
★★★★☆
殺人事件が2件起こりますが、登場する人々が好ましい人物ばかりで、ゆったりと楽しく読めます。
浅見光彦と名古屋と宮城県奥松島の家族との思いやり豊かな交流が楽しく描かれています。
東京の浅見家と名古屋のセレブと仙台箪笥職人の理想的な家族それぞれの美点がみごとに描き分けられていて、感心もし、うれしくもなりました。
事件は急転直下解決します。
謎解きにはもう一ひねりほしいところですが、
隠された財宝の正体は納得がゆくものでした。
最後のエピローグでほっとして終わります。
3ヵ月連続刊行、全部読んでみました
★★★★☆
冒頭から、『幽霊箪笥』を主役に据えた展開が面白く、
まずは数十ページばかり引き込まれました。
東松島市の説明やら、探偵登場シーンやらを経て、
いよいよ『不等辺三角形』の謎の提示。
物語も煮詰まってきた後半、第九章の畳み掛けるような緊迫感も、いい感じ。
東松島市以外の主な舞台は名古屋です。
千種区にある陽奇荘という元別荘。レトロ感たっぷりの建物です。(実在する建築物がモデル)
この建物と汪兆銘との浅からぬ縁が、ストーリーに深い影を落とすことに・・・
物語が煮詰まってきた後半、第9章は緊迫感をはらんで畳み掛ける展開。
そして最終章、浅見は例によって真犯人の ○○○ を ○○○ することなく・・・
・・・と、まぁこれぐらいにしときましょうか。
ただし、最後の最後の10ページまで目が離せませんよ。尻尾まであんこ入ってる
ただねぇ、犯人の正体にもうひとつ意外性が無かったのと、
初版一刷ゆえなのか、謎解きの肝心要の部分である"不等辺三角形の解説" (192ページ)
が思い切り間違って・・・ると思います。
かなり大事な部分だけに、これじゃちょっとなぁ。
(もし私の勘違いならゴメンナサイなんですが・・・)
て事でとりあえず星2つ減。
でも冒頭の引き込まれ感や、クライマックスのテンポと緊迫感、
そして浅見クンの『大好物』である美人メイド萬来澄恵ちゃん作の巨大オムライスが、
(あ、大好物ってのはオムライスの方ね) 実に美味しそうに描写されてたり・・・
等等の合わせ技で星1つ増。
今回の内田先生の"デビュー30周年記念3ヵ月連続刊行"シリーズの3作品中、
これがいちばん面白かったです。 (他の2作は『教室の亡霊』『神苦楽島』)
ちょっとレトロなミステリー
★★★★☆
内田さんの本はもちろん大好きでついつい読んでしまいます。幽霊箪笥に、殺人事件、資産家豪邸と、レトロな雰囲気満載の、ミステリーです。地元名古屋が半分舞台なのも(もう半分は、仙台)、興味をそそられます。ただ、最近内田さんは、政治や歴史がからんでいたり、現代の社会問題をからめた作品が多くなっていますので、それを期待すると期待はずれかも。古典的な娯楽ミステリーと、割り切って読めば楽しめます。