「積極的財政政策」を主張する点に新味
★★★★☆
本書は、簡単に言えば、同著者により半年前に出された「世界経済危機 日本の罪と罰」の議論を追認するものです。前著において主張されていた@日本の円キャリートレードなどによる資本供給が米国の金融危機の誘発に加担したこと、A今回の金融危機により円安バブルを裏づけとする日本の輸出立国モデルが完全に崩壊したことなどが改めて強く主張されています。したがって、著者の著作をこれまでにも手にとったことがある方にとっては、本書の内容・主張はあまり目新しいものではないでしょう。
あえて、新しい点を挙げるとすれば、現在の不況を克服するためには積極的財政政策(すなわち、公共投資)が必要であることを明示的に主張している点です。供給側ではなく需要側のショックによる今回の経済危機を克服するためには、供給側(金融機関及び企業)に働きかける金融政策ではなく、直接的に需要を創出する財政政策が重要と主張します。財政赤字が累積する中で、積極的財政政策を推進するという政治的決断が現実的に可能か否かは別として、著者の主張には一定の説得力があります。
なお、本書には、紙面を稼ぐために無理をして入れ込んだような箇所が随所に見られました。たとえば、第7章において個人レベルでは金融投資ではなく自己投資が必要と説いていますが、全体の議論の流れから見て若干違和感があります。個人的には、著者がもっとも主張したい論点に絞った上で、理論的な背景などを丁寧に加筆してほしかったと思います。
地頭力の優れた方だと感心しました
★★★★★
全体を俯瞰し、的確なデータを選び、地に足がついた議論展開をなさっています。
名立たる機関が予測を誤る中で、適確な予測をなさっています。いわゆる「地頭力」に優れた方です。
どんな状態を指して、大不況の出口と言えるのか、明確な根拠に基づき解説されています。
日本のGDPがピーク時より10%減と言うショッキングな数値ですが、受け入れざるをえません。
同じ過ちを繰り返さない為には、どんな方向は避けるべきなのか、
新時代に対処する為に、少なくとも何だけはすべきかを明確にして下さっています。
新時代に向け何をして良いか分からない人には、ヒントとなり、
おぼろげながら見え始めている人には、本当にそれで良いのか確認する手掛かりになるでしょう。
分厚い本で読むのに骨が折れ大変であれば、太字で書いてある所と各節末毎の「POINT」を読むだけでも、役立ちます。
勉強になりました
★★★★★
かなり読みにくい本で、途中斜め読みしたような所も多いが、これ一冊読むことで、現在の世界不況について、アメリカ経済、中国経済、日本経済の「いま」のだいたいのところ(一般常識レベル)はわかったような気にはなった。
いま起きていることは、バブルの世界同時崩壊であり、日本は外需依存の体質を改善し、産業構造を抜本的に変えない限りいつまでも沈没し続け浮上できないということが説得力をもって書かれていて、そのソリューションとしては、国家が大規模な公共投資を行うほかない、と書いているが、それしかないのか、と思うと、やや絶望的な気分になった。現段階において政治はそうした方策をとってはいないし……。もっとも、この著者は、基本的に日本の政策についてはいつも否定ばかりしているという印象もあるので、少し割り引いて読んだほうがいいのかもしれない。
また、では個人では何ができるのか……という章も最後についているのだが、これが思い切り蛇足に思った。そこでは、もっと勉強して資格を取ったりしろ、起業しろ、などと言っているのだが、ある程度の紙数を割いているにもかかわらず、急にここだけエビデンスも曖昧で、おざなりなアドバイスの感じがした。本を読め、それもくだらない自己啓発書ではなく、ちゃんとしたビジネス書で勉強しろ、みたいなことが書かれているわけだが、この章のノリは、かなり自己啓発書チックになっていたような……。
今はまさに崖っぷちに立たされているくらいの危機的な時だと再認識させられた。
★★★★☆
野口氏の著作には通説とは異なる新たな視点があり、はっとさせられることが多い。
今回の著作もそうである。
今の日本の風潮は、昨年9月以降の大変な危機感に比べると、落ち着きを取り戻しているように感じる。政府などは、早くも景気底打ち宣言を出している。
ところが著者は、これから大変な事態が日本に襲いかかると、具体的な証拠をいくつも例示しながら断言している。
今回の金融危機の影響をもっとも受けるのは、ほかならぬ日本であり、実質GDPは1980年代レベルにまで落ち込む。為替レートは1ドル60円まで突入し、日本の金融危機が生じる。そして、日本政府は未曾有の税収落ち込みとなる。
という、驚くべき予測である。
その上での処方箋である。これだけの信じがたい予測をたてている以上、この著者の今までの主張はほとんど放棄して、以下のような主張をしている。
それは公共事業。有効需要が極端に減少している今こそケインズ政策が必要としている。ただし、地方ではなく貧弱なインフラを抱えている都市部への重点投資。そして、景気回復までという時限措置とすべきとしている。
そして、少子化対策としての直接給付。内需拡大への切り札であるとしている。
さらには、日銀引き受けの国債発行。ここのところの法人税収の大幅な落ち込みを背景に、需要拡大策を取るためにはこれしかないという。
いずれの議論も、この著者は以前は全く否定的だったと理解しているが、ここへ来ての大胆な転向に、今はまさに崖っぷちに立たされているくらいの危機的な時だと再認識させられた。
経済危機のマクロ経済分析は読み応え満点だが、対処策については思考停止に近い論考
★★★☆☆
本書は、世界経済危機 日本の罪と罰の続編です。この世界的経済危機は、日本、中国、産油国からアメリカにドルで還流した資金が元になって、アメリカ発信という形で顕在化したが、本質は世界的巨大バブルの崩壊現象であり、日本、中国には特に大打撃だという。また、今回の経済危機は、日本の政策的、人為的円安バブルの崩壊でもあり、米国発の金融危機が起こらなくても発生したとされ、日本の主要経済統計等は2003年頃若しくはそれを割り込む水準に落ちると分析している。
今回の経済危機が収束するための条件は、
1)日本全体が輸出立国から脱却し、内需主導型の経済モデルを作らなくてはいけない。
2)アメリカの貿易赤字が現状の半分程度に落ち着くこと
とのことだが、これを各種の統計を絡めて説明している。また今後の日本のあり方としては、公共投資を前倒ししても行い、個人は自己投資をして付加価値を上げていくことが重要だと述べている。例として資格取得、フルタイム若しくは社会人向け大学院の活況を述べているが、これについてはあまり濃い論考とは言えない。また、個人レベルでの分散投資は情報の非対称性の面からリスキーと結論し、銀行に預金しておくのが合理的だと言っている。この資産運用方針については半ば思考停止を正当化しているように思えた。今回の金融危機の各種分析に際し、マクロ経済、金融経済理論を骨太な駆使した実践的経済理論書の著者がこの程度とはかなりマイナスなイメージも同時に持った。また危機脱却策として従来型公共投資を行うことや、日銀の国債買い取りなどを示唆するなど、後世にツケを残す策しか述べていない。 本書は第5章までは非常に読みごたえがあったが、それ以降は、どうしても尻すぼみ的な印象がぬぐえないのは私だけであろうか。