時代は十七世紀後半、場所はイスタンブル。人生の途中から奴隷として生きる運命を背負ったヴェネツィア人「わたし」の物語。師との関係や日々の生活を語る「わたし」の表現は、ある種の陰鬱さに彩られた独特の人間洞察を含んでいて大変に魅力的である。これは著者の表現力とともに、訳者の力量が優れているためでもあろう。買って、読んで損はない一冊である。