お楽しみはこれからだ
★★★☆☆
本書のカバーにあるサンゴ礁は、10年前なら沖繩島の周辺で普通に見られる光景だった。
1998年、高水温による大規模なサンゴの白化現象が起こり、多くのサンゴ礁が死滅した。
本書は、この劇的な環境変化を経験した研究者らによって編まれた、
島嶼系生物多様性のなりたちと、その喪失が人々の暮らしに及ぼす影響に関する提言である。
一般の読者を想定してか、研究史の説明部分が長く、最新の研究成果の説明が少ない。
一方で、専門用語を使て生物多様性を理解するための様々な「視点」が示されており、
生態学の基礎を知らない読者には、著者の思いが伝わりにくい部分も多いかと思われる。
巻末に、「近い将来、本COEプログラムの成果を改めてお届けする...」とあり、
多くは研究プログラムの趣旨説明と言った位置づけの内容となっている。
長い地球の歴史のなかで、大陸と陸続きになったり切り離されたりした琉球列島。
小さな島々に残された生き物の独自の進化、島と言う特殊な環境での生き物の相互作用、
サンゴ礁を形作るサンゴの多様性を保つ様々な要因など、各専門分野の研究者が
これまでの研究や周辺情報まで含めて説明している。
化石教授の昔話が影を潜め、実力のある若手研究者による最新の研究が印象的。
琉球列島の生物多様性についての研究は、これから面白くなりそう。