18歳でもこんなに数学が出来た日本人が10万人 もいた!
★★★★☆
数学が得意という人は、残念ながら極めて少ない。しかし、ここに集められた問題はどうだ。トライしてみた。確かに難しい。だが、今は入試ではない。解答編のページに手が行く。
これらを18歳で、あるいは浪人しても20歳未満でほとんどを正解した者が年間で2,000人もいたのだ。18歳の石川遼クンの12アンダー、58ストロークにも驚嘆するが、50年前から社会に知られない遼クンがワンサといたのだ。
この50年間に日本は敗戦を後にした復興の昭和30年代前半から経済高度成長の40年代へ、過度の工業化からの公害の発生と対策との40年代後半へ、50年代には重厚長大から短小軽薄へのエレクトロニクス時代へ、経済力が世界最高に達した60年代は一転して土地ブームからバブル時代へ、バブルは当然にして破裂して、その後の回復せざる20年にもおよぶスタグフレーションの今に続く歴史をこの書は、明快に示している。
代数、関数、幾何、解析はものづくりと世界マーケットの制覇に、確かに役立った。確率を学んで利用したものは、金融マーケットで活躍し、ものつくりに必要なキャピタルを供給した。株式市場で巨万の富を得たホリエモンを生み、虚業もあり得るということも示した。だが、この中にはデジタル時代に必要であったコンピュータ数学が存在しないのには驚く。ソフトは米国に先進され、ハードの大量生産に甘んじたのも、この日本の数学の特徴なのだろう。
これら2000人の才能を活かして行くべきと思わせる内容がここにはある。「頭の体操」、「脳の訓練」を謳う天下のあまたの愚書は捨て、優れた若者の頭脳を本書で理解していくべきだろう。われわれ大人は少なくとも方向性を若者に示してやるだけの義務がある。
良くも悪くも東大です
★★★★★
戦後の日本では、秀才は東大を目指すし、東大は秀才を好むという蜜月状態が半世紀以上にわたって続いている。この本を眺めていると、本当によくできた問題が多いので、圧倒される。例えば、379の問題は、平成12年度後期入試で出題されたものであるが、後期入試といっても、全然手を抜いていない。基本的にはNewtonの補間公式を証明させる問題の変種と言っていいが、なかなか歯ごたえのある問題である。もうひとつ面白いと思った問題は620の問題で、平成10年度後期入試に出題されたものである。場合の数の問題ではあるが、Graphという高校数学ではあまり馴染みのない素材を扱っているので、事前に類題を解いて準備しておくわけにはいかず、即本番での勝負となる。いわゆる数学的思考力 (Mathematical Maturity) を試す問題というやつである。前期入試に比べて後期入試は一般に少人数で問題を作成するので、こういう入試問題としては必ずしもOrthodoxでない問題が出題されやすい。大人数で作ると、よくも悪くも会議形式になって、個性的な問題は潰されるか、何とか生き延びても、完全に灰汁抜きをされ、換骨奪胎されて、最早原型を留めない。
この本は昭和31年から平成17年までの東大の数学の入試問題を、年度順に掲載した後、項目に分類して編纂したもので、東大受験を考える受験生だけではなく、予備校関係者も含めて、広く数学教育を考える人々にとって必需品と思われる。今のところ、こういう試みをやってくれるのは聖文新社だけなので、貴重な出版社である。この出版社に聞いたところでは、東大と京大だけではなく、少なくとも北大から九大に至る旧帝大くらいには同様の本を出版する予定とのことである。特に年内 (2009年) に東京工業大学の分を出版すると張り切っておられたので、楽しみである。