京都の街中を観光で訪れる前に読んでいただきたい町家案内
★★★★☆
暮らしと意匠の美という副題がついています。京都独特の町家建築は、他の都市では見られない特徴を備えています。それらをカラー写真と詳しい説明で解説し、併せて京都にゆかりのある方々に随筆を寄稿してもらったという内容でした。
巻頭に財団法人奈良屋記念杉本家保存会理事長の杉本秀太郎氏の「京町家の住み心地」というステキな随筆が掲載してありました。京町家と呼ばれるようになった時期、木造建築が減りだしたこと、相続問題と町家保存問題、京町家の構造や間取りなど、本書の内容を3頁のエッセイで見事に表現してありました。「住んでからの住み心地は、住む人の心掛け次第ということ」という言葉に鮮やかにまとめられています。
最初に町家の構成として、外観や庭、特徴的なハシリやダイドコについて紹介してあります。百聞は一見にしかず、ですから、写真をみればその個性的な風情を感じられることでしょう。
町家のデザインの項目では、虫籠窓、格子、犬矢来・駒寄、床の間、建具などの実例を掲示し、京都以外の方にも分かるように説明が加えてあります。
石橋郁子さんの「宵山のミセは女のハレ舞台」というエッセイは、京町家に住む女性の気持ちを代弁したものでしょう。祇園祭の山鉾町の家では、いわゆる屏風祭りと称する秘蔵の家宝を公開する慣わしがあります。書かれているように応挙や栖鳳の屏風の素晴らしさと同時に京町家の佇まいの見事さを他府県の人々が知る機会でもあります。
後半では、商う町家と題して、京町家をそのままレストランや料理屋として使用しているお店を紹介しています。88ページの錦通り室町西入ルの「膳處漢ぽっちり」は北京料理・BARを営んでいます。外観の洋館造りと中庭を持つ町家の双方の良さを取り入れた凝った作りになっており、とても居心地の良いお店です。
同様に柳馬場通蛸薬師上ルの中国料理の「菜根譚」もリーズナブルのお店です。町家と中華料理とは一見ミスマッチなようですが、摩訶不思議な風情が漂うお気に入りのところです。その他、水だき・京会席の「鳥彌三」やフランス料理の「祇園おくむら」、フランス料理の老舗の「ぎをん萬養軒」などの名店が掲載してありました。