絶望の淵から屈することなく
★★★★★
「筆子その愛−天使のピアノー」として映画にもなっているが、
私自身、映画よりもこちらの書籍の方が何倍も感動して涙を流した。
もちろん映画も佳作だったが、
こちらの方が筆子の生い立ちや苦悩、その生き様を克明に
丁寧に細部まで描写している。
特に、映画版では描かれなかった
「猫足の優雅なバスタブの傍らで泣き崩れる筆子」
「学園が火災に見舞われた際、
自身の危険も省みず生徒の安否に必死になる筆子」の様子は
この本でないと知ることが出来ない。
かつて女性の社会的地位が確立されていなかった時代に
これほどまでに壮絶に生きた人物が居たことを、是非この本で知って頂きたい。
そして、誰からも羨まれるような人生を歩んでいた最中、
まさかの絶望の淵に突き落とされながらも、
その逆境に屈することなく生き抜いた彼女の存在を知って欲しい。
流れるように一気に最後のページまで読ませる一冊です。
純粋に、美しく、力強く生きることのできた人
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映画では描ききれない筆子の内面を、時間を追って丁寧に語る文章。
こんなに純粋に、美しく、力強く生きることのできた人がいたのかと、感歎し涙腺が緩む。
そして、障害に先入観をもっていた自分の野卑な心を恥じる。
厳しい現実、壮絶な献身と愛
★★★★★
本屋で買って、2時間で読み終わりました。
感動と涙と共に、知的障害の方々対する私自身の心の在り方が、厳しく問われた一冊です。
石井亮一と再婚する前に授かった長女の幸子ちゃんが病院で「知的障害を持って治らない」と宣告され、筆子が「私クリスチャンなのに、この子を殺そうとしたの!」とお手伝いさんに叫び泣くシーン、外国から帰ってきた前夫、果が「この子は私たち二人の子ではないか。どんな子でも一緒に育てていこう」と、筆子を慰めるシーン。私の涙の前半のクライマックスです。
滝野川学園で知的障害の子供たちとの交流が、後半の涙のクライマックスでした。
夜中の見回りの時「お化けだ!こわい!」と叫ぶ子供たちに「お化けじゃないわ。お母様先生よ」と優しく話しかける筆子に「あ、ほんとだ!てんていだ!」と呼びかける子供たちの可愛いこと!卒業した子が寿司屋に奉公し、巻き寿しを山ほど持ってきて「俺、寿司作った!うまいか、まずいか。食っていただく」と喜び一杯の表情で差し出す寿司を食べ、その成長振りに涙する石井夫妻。アメリカから送られてきた日本人少年繁一を引き取り「アメリカ仕込の白痴」の侮蔑の言葉と戦う筆子。学園の火災で繁一初め数人の子供たちを失い、筆子自身も車椅子の生活になり、呆けたようになりながら、亮一と学園再起に向かって立ちあがる筆子。なりふり構わぬその生き方は壮絶で、圧倒されます。映画化されておりますので、是非映画と合わせてお読みになることをお勧めします。
私は読後に映画を観ましたが、映画はもっと壮絶で、エンディングも重く厳しいものでした。映画をご覧になった方は、この本で慰めをお受けになるでしょう。映画をまだご覧になってない方は、この本より、もっと厳しい現実と、それに立ち向かう筆子の壮絶な愛と献身の生涯をご覧頂けます。
「人生熱愛」
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「筆子その愛−天使のピアノー」を見て、物足りなさを感じ、本を読むことにしました。
決して上手い文章とは思わないのですが、その読みやすい、柔らかな文章と、巧みな構成で、一気に引き込まれました。
前半の「華麗な」筆子、三人が三人とも健康な子に恵まれず、「死」さえ意識せざるを得ないような苦境の時代、そして「愛」を見つけ、苦しいながらも満ち足りた時代と、その波乱に満ちた彼女の人生の、節目節目がしっかりと書かれており、彼女の決心が良く伝わってきます。特に、後半の再婚してからの部分は、一つ一つのエピソードが涙を誘います。
それにしても、これほどの先進的な女性が明治の時代の存在したとは、想像だにしませんでした。
英語、フランス語、オランダ語が堪能で、容姿にも恵まれ、「鹿鳴館の華」と歌われ、フランス留学、アメリカでの国際会議への出席と、順風満帆の人生から、知的障害者のためにすべてを捧げる生活に。普通では考えられない決断です。そのままであれば、津田梅子と共に歴史に名の残る女性であったろうに。「人生熱愛」ですか。