「母の愛に満ちた心と気骨はどこからきたと思うか、と私は尋ねられた。最初の本ではその点が軽く扱われていたという意見もあった」。母方の祖父であるチャーリー・バンドラムの人生を描き出した本書で、ブラッグはこの点を埋め合わせようとしている。チャーリーは妻のアバとともにアラバマとジョ-ジアのへき地で、絶え間ない窮乏の時代に7人の子供を育てた。「彼は背の高いひどくやせた男で、歯で爪をかみ切り、オーガスタの煉瓦のように堅い手で手斧を使った」と、ブラッグは書いている。「彼はへき地の伝説を生み出した、ある種の忠誠心をかき立てる男で、今でも老人たちは彼の名を口にするたびにうやうやしく頭を下げる」。
チャーリーは1958年に51歳で若死にしたが、子供たちは父親をとても慕っていた。死後40年たっても、ブラッグの叔母と姉は父親についてきかれるたびに泣き出した。懸命に働いてなんとか暮らしを立ててきたチャーリーの生活を、南部の労働者階級特有のきびきびした表情豊かな口調で記録しながら、ブラッグは単一化されたニューサウスに居場所をみつけられなくなった無骨な人物を描く。
親族から聞いたすばらしい逸話の数々──チャーリーがたちの悪い酔っぱらいの群れに、金づちと手斧、そして12口径のショットガンで立ち向かった話や、森で非合法の白ウイスキーを作った話(「彼は自分の肝臓で試さない酒は一滴も売らなかった」)──は、主人公の人生の一コマを生き生きと伝えているだけではない。こうした話を記録することによって著者は、強固なルーツをもつきわめて重要なアメリカ南部の言い伝えの文化に対する敬意を表してもいるのだ。