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A Heartbreaking Work of Staggering Genius

価格: ¥2,032
カテゴリ: ペーパーバック
ブランド: Vintage
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   すべては、立て続けに両親をガンで亡くすことから始まる。21歳のエガーズは、残された8歳の弟を育てることになる。しかし、悲劇の物語でも、単なる愛と感動の物語というものでもない。ユーモアにあふれた大胆な回想録である。

   両親の死は確かに不幸なできごとには違いないが、一方で自由を手にしたと感じている。その状況を利用しようというしたたかさもある。弟を親代わりに育てるにも、「彼の頭は僕の実験室」と、世間体など考えず、自分が最高と思うものだけを与える。新しい生き方を提唱するべきだと、何の基盤もないのに雑誌を創刊する。

   自由というよりむしろ、ただ無茶苦茶で無計画なだけのように見える。だが、表向きはそうであっても、弟をベビーシッターに任せ、ひとり夜遊びに出かけたとき、ベビーシッターに殺されていやしないかと不安に駆られるような彼に、弟へ対する深い愛があることは否めないし、何かを変えようという情熱は、具体的にどうするかはともかく、気持ちのうえでは本物だろう。躁鬱(そううつ)入り混じったような語りの中にも、懸命かつ正直に生きる青年の姿がひしひしと感じられる。独創的で自意識過剰だが、実はかなり生まじめでまともな一面を持つエガーズの、まさに「奮闘記」なのである。

   エガーズの作家としての才能も侮れない。ともすれば涙を誘うような話を、ときには饒舌(じょうぜつ)に、ときには感情を抑えて淡々と語り、怒りや悲しみといった感情を押しとどめることなく描き、たびたび思いつきの妄想の世界に入りつつ、ユーモアを織り交ぜることで読者を巧みに引きつける。巻頭には「この本を楽しむためのルールと提案」や、本書のテーマを解説した「謝辞」などが付されており、かなり珍しい構成となっている。

   本書は40週連続で全米ベストセラーリストに入り、タイム誌ベストブック、ピューリッツァー賞候補(惜しくも賞は逃した)、ニューヨーク・タイムズ紙の編集者が選ぶ「今年のベスト10」など、まさに驚くべき賞賛を受けている。(藤本 裕)