テクスト精読の残酷な威力
★★★★☆
●本書の各エッセイをつなぐ強力なキーワードは「テクスト精読」と「人種差別」である(関わりの薄いエッセイもあるが)。著者の専門とする19世紀イギリス文学を中心とした資料の中から、人種の差別に関して、無かったことにされていること、忘れ去られていること、見落とされていたこと、などが、著者のテクスト精読により(いくぶん露悪的に)あぶり出され、ことごとく白日の下に晒されてゆく。その作業は、現代の標準で断罪するという過ちを犯さないだけ余計に残酷である(ただ [晒しものにする] のだ)。
●ところで、著者が本書で語る内容を隅々まで理解できる一般読者は果たしてどれだけいるのだろうか?そんな疑問さえ浮かんでしまうほどの博覧強記ぶりに圧倒されるが、そこにはポストモダニズムがかった衒いやごまかしはいっさい感じられない。だから、著者の言葉をひとまず信仰して読み進めていると、いつの間にか残酷な中にも力強い著者独特の語り口に引き込まれてしまう――そんな不思議な気分を味わったエッセイ集であった。