能楽ファン必読と思う、太平記好きも
★★★★★
観阿弥の出自に関する論争、古文書の扱い、在野の地方史家と象牙の塔との論争、皇国史観など、歴史学に興味のある人、及び能楽のファンにとっては、大変興味の尽きない書である。学説では観阿弥は、芸能者即ち賎民の出とされて来たが、伊賀の旧家から発見された文書、系図から判断すると、実は楠木正成の流れであるという。足利氏と南朝の出の(それも正成の関係者の)能楽者という、摩訶不思議な関係について、文献のみに囚われず、著者はフィールドワーク、インタビューによる口承から、解きほぐしていく。
但し、元がネットに掲載されたものであるためか、重複が多い。あまり熱心には改稿されなかったと思われる。また、第九章は乱丁、文の重複、文章の飛びが多くあり、真面目に校正されていない。内容が立派なだけに、出版社の怠慢が目立ち大変に残念。