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悲劇週間―SEMANA TRAGICA (文春文庫)

価格: ¥1,000
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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矢作長編の最高作 ★★★★★
 矢作氏の長編としては、最高作だと思う。(個人的には、短編集の「マンハッタン・オプ」シリーズが、氏の最高傑作であると同時に、日本のハードボイルド小説の最高峰だと思うので。)
 著者の作品では、現代を舞台にした作品では、過剰なほどに情緒的な語り口が、カッコいいと同時に鼻につくこともあるのだが、この時代設定に合致して、それがあまり気にならず、むしろ心地よい。
“日本人らしく、日本人らしくない”矢作俊彦らしい作品 ★★★★☆
 日本初の外交官の父の傍らでメキシコの内戦に立ち会い、メキシコ娘と恋に落ちる堀口大學。この特異なシチュエーションにある「堀口大學」に著者は憑依する。「堀口大學」を想像し、創造する。著者のこれまでの作品と同様、「日本」について深く考えさせられる作品だ。
 「西洋世界は嘘でつくられている」「国益のためなら、嫌いな者とでも握手をするのが外交」。そうした一筋縄ではいかない西洋世界と、日本はどうやって折り合いをつけていけば良いのだろうか。本書から得られるヒントは2つ。ひとつは、堀口大學が享受する過分な愛。2人の母親からの愛と、メキシコ大統領の姪フエセラからの愛。「なぜ愛されるのか?」という問いは、メキシコでの当の日本人でも理解のできない親日感情とパラレルだ。もうひとつは、マデロ大統領の存在。闘牛嫌い、銃殺嫌いで、一見メキシコ人らしくなく、その決断力の無さはメキシコ国民から呆れられているのに、心底のところで国民の信望と親愛を得ているマデロ大統領。その姿を、日本の在り方の理想にダブらせることも出来るはずだ。
 何事も一面的なものではなく両義的なのだという暗喩が、この小説には其処彼処に盛り込まれている。「僕は求める死の中に生を 病気の中に健康を 牢獄の中に自由を 囲われた土地に出口を 裏切り者にまごころを」という詩のように。「ひとつを失えば、何かをまたひとつ得る」「人は、欠け落ちた何ものかのために生きる」という言葉のように。
 このボリュームなので咀嚼出来ていない粗も結構目立つけど、“日本人らしく、日本人らしくない”矢作俊彦らしい作品で、いつもながら楽しむことが出来た。
明治は遠くになりにけり……。現代には「悲劇」がまぶしく映る。 ★★★★☆
「明治45年、ぼくは二十歳だった」
 偶然手にした文庫本の書き出しに吸い込まれ、気がつけば革命さなかのメキシコを旅していた。
 堀口大学。詩人にしてフランス語の翻訳者。国語の教科書に登場した人物が、まさかこれほど波乱に満ちた青年期を過ごしていたとは。メキシコで在外公館の公使を務める父親に呼び寄せられ、異国を訪れた若き日の堀口。好奇心に満ちた詩人の目を通し、当時のメキシコの情景が鮮明に描かれている。これが、歴史小説の持つ力だろう。
 冷徹な外交の世界に生きる父と、純粋な若き詩人の会話もまた、興味深い。まっすぐに正義の道を説く息子と、「外交で正義をなそうなどとは思い上がりだ」と静かに諭す父。一見、正反対の道に生きる親子だが、物語の終盤にその思いが交錯する。
 「詩人になるのを止めろとは言わん」と父が言えば、息子も誓う。「自動車を見送りながら、ぼくは心に決めていた。生涯ぼくは父親になるまい、と」。父の生き方を理解し、敬意を抱いたがゆえの言葉だろう。
 堀口大学やメキシコ革命について、もっと詳しく知りたいと思わせる一冊。