嚶鳴館遺草口訳 第四版
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本書は「嚶鳴館遺草―細井平洲の教え 篠田竹邑」の第四版です。
嚶鳴館遺草は折衷学派の儒学者、細井平洲先生の学塾、嚶鳴館での講義録や先生が関わった諸大名などとの書簡を、弟子の上田雄次郎が編集をし、十六年をかけ、先生の三十三回忌に公刊された遺稿集です。先生の活躍した時代は明治維新の約百年前です。
さて、嚶鳴館遺草は主に儒学を説きます。儒学は孔子に始まる政治・道徳の学問です。教えの始めは「礼」です。キリスト教の「愛」と同じ至上の「善」です。
「礼」の本意は他人(ひと)を人として敬う心です。作法の形ではありません。
「礼」を元(はじめ)に、他人を思いやる心「仁」が、社会での一人ひとりの立場の大事「義」が生まれます。
遠い昔、孔子は、暴力により登場した為政者たちに「礼」の大切を教え、「人の道」を説き、彼らの権力を控制し、我欲・俗情の世を匡そうとしました。
孔子の後生、孟子は、より具体的で実践的な「仁義」を説き、その教えを発展させました。
ですから、嚶鳴館遺草は「仁義」を道(おこな)う大切さとその術(すべ)を教えます。術とは「人としての正しい行いのできる人づくり」です。
普段の人であれば「仁義」を道う徳を、為政の人であれば「仁・知・勇」の三達徳を身に付けた人です。いわゆる、人としての品位、品格を教えます。
また、遺草中に頻出する「人の情」、「人情」とあるように、「情」に適った教え、施政の必要が強調されます。単なる古典の解説本ではありません。
道徳(徳を道うこと)の大切さは、例えれば、今のネット社会のプラットフォーム、様々なソフトウェアやハードウェアが動作する基盤システムと同じです。どれほど知識学問に優れ功業があろうと、その人の性格・行いが不良では世に害毒を流すばかり、それが政治家でもあれば、忽ちに、社会はむなしく泯(ほろ)びるほかありません。道徳を授業科目の一つに矮小化してはいけません。道徳は日常の大事です。
さて、遺草は、巷間、「子育ての書」、「教育書」と評されるようですがどうでしょう。
確かに、子育ての始めは親の愛情、教えの始めは親の善悪正邪の心の有無、学問の始めは親が教師を敬うことで、そうでなければ、教えは成らないと説きます。さらに、教師の資質・心得として「真面目さ」「心の広さ」「教えの場での創意工夫」「徳行一致」の必要を教えます。しかし、そればかりでない、より大きなテーマを遺草は伝えています。大名家の子育ての方法を後世に遺そうとした訳ではありません。
それは、「停滞と廃頽を脱し革新へ至る人づくり」への道です。
なお、拙著では、嚶鳴館遺草として記されるもののほか、上杉治憲侯(十九歳)の初の国入りを前に平洲先生が贈った激励文「米沢侯の国に就かかるを送る序」を紹介しています。
諸葛亮孔明の「前出師の表」に比肩できる大感涙の名文です。
平成27年5月1日
著者・訳者
目 次
第一 細井平洲
第二 嚶鳴館遺草
※原文「嚶鳴館遺草」に無い目次の柱は著者限りの整理であることを、予め、
お断りいたします。
巻之一野 芹
野芹 上
根本の三箇条(節倹の政を執る上での三つの弁え)
一 入を量りて出るを制す
二 君主は民の父母
三 上下心を和す
野芹 中
枝葉の四箇条(臣下を扱う上での四つの弁え)
一 慈悲の心を持たせること
二 人情に適った正しい恵みを与えること
三 政浄簡易を心がけること
四 君主の行いに裏表のないこと
野芹 下
花実の五箇条(末永い政への五つの弁え)
一 しっかりとした風俗・文化を育むこと
二 文武の道を進めること
三 率先して節倹の手本となること
四 贅沢・奢りを抑えて暮らすこと
五 仁徳を身に付けること
巻之二 上は民の表
上は民の表
一 君徳のあるべき姿(明徳・顕徳)を弁えること
二 臣下の四つの徳目を活かすこと
三 忠諫の臣を大事にすること
四 臣下の誇る君徳を積むこと
五 五つの君徳
教 学
一 教化の本意
二 教化という「民への恵み」
政の大体
一 緩やかで公平な政を行うこと
二 人材の登用
三 悪への毅然とした姿勢をもつこと
四 善行を賞すること
農官の心得
一 農業の振興
二 農官の心得
巻之三 もりかがみ
もりかがみ(守り鑑)
一 成長の各段階に応じた「教え」の大切さ
二 「教え」を与える上での大事
三 師傅へ迎えるべき人-正直・勤勉の人-
四 子に教えねばならない徳目
五 師傅となった人の心得
対人之問忠
一 忠と不忠との「境」を弁えること
二 礼譲の弁え︱礼義廉恥の徳目
建学大意(米沢興譲館の学則)
一 君相三箇条(治憲侯の建学への三つの思ひ)
二 師長二箇条(教師の二つの心得)
三 生員一箇条(学生の心得)
巻之四 管子牧民国字解
国 頌
四 維
四 順
十一経
六親五法
巻之五 つらつらぶみ
つらつら文(ぶみ) 君の巻
一 富貴の家の子育ての難しさ
二 子の育て方
三 師傅(教師)の条件
四 学派の選定-徳行一致の人を求める大事-
つらつら文 臣の巻
一 若君への学問の進め方
二 家中での「上下一和」の進め方
三 異見を唱える者への対処
巻之六 花木の花
花木の花 本
一 「根」の養いを大切にすること
二 末代までの花の咲き様への心配り
三 教えて後に富ます
四 臣下を正しく評価し信賞必罰を怠らぬこと
花木の花 末
一 「栄」は天分を知ること
二 「辱」は天分を忘れること
三 「栄辱の実意」の弁え
対某侯問書
附 録
米沢紀行文の要約
第三 追 補
米沢侯の国に就つかるるを送る序
第四 年 表
以 上