政治家やめます。―ある自民党代議士の十年間
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向いてないのでやめます
―2000年6月、国政史上、前代未聞の理由で政界を去った元自民党代議士・久野統一郎(愛知8区)。
竹下派、小渕派を経たエリート二世議員の苦悩の日々、戦後政治の“失われた10年”を、最年少大宅賞作家が描く。
一人の書き手として、政治についていつかは書きたい、と思っていた。だが、大物議員を主人公にしたくはなかった。財界との結び付きなどが、
一般有権者との距離感を生じさせ、読者の共感をよばない、と思っていたし、別世界の気持ちにさせられるからだ。
大物議員ではなく、中堅議員、若手議員の視線から見える政治を書きたかった。
その意味からしても、久野統一郎氏との出会いは私の人生にとって、大きな財産になった。日本の政治の激変ぶりに驚かないわけにはいかない、と記したが、
二十一世紀を控えた十年間は、日本そして世界の政治史において特筆すべき激震期だった。久野氏の出馬前から引退、
小泉内閣誕生までの十数年はまさしく、その時期にあたる。今後の十年は果たしてどうなるのか? 皆目見当がつかない。
自民党の存続すらわからない。久野氏引退か? を知ったのは一九九九(平成十一)年の夏だった。本書でも記したが、日刊スポーツの記事だった。
それから、いくつか週刊誌でも記事を見た。盗聴法などの重要法案が数の力で決められていた時期だったこともあり、
その点からやめたくなる国会議員がいても不思議ではない、と思っていたが、半信半疑だった。
そして、二〇〇〇(平成十二)年六月の衆議院解散。「向いてないからやめます」というコメントが入って、久野氏の引退が共同通信から配信された。
自民党と公明党の過去を捨てた連携に疑問を持っていた私は、久野氏の正式引退を見て、無責任というより「やめたくなるのももっともだ」と共感する気持ちだった。────あとがきより