タルコフスキー研究書は世に多く出ている。しかし,その大部分はタルコフスキーが書いた著書から引用することで作品世界を説明していたり,先行する研究書からの引き写しが非常に多い。その中で,本書は,可能な限り自分の言葉で表現しようとしており,類書にはないすぐれた視点が数多く含まれている。
例えば,「アンドレイ・ルブリョフ」は複数のプリントを詳しく比較することで,タルコフスキーが何を表現したかったのかが具体的に分かる。また,最も難解な「鏡」も著者の説明で(私には)非常に理解が容易になった。さらに,第10章は!2!!におけるタルコフスキー映画の意義を的確に表現している。以上から,本書をタルコフスキーのファンに是非一読をおすすめしたい。
ただし,著者は中期の名作「ストーカー」には低い評価しか与えていない点では個人的にはやや残念である。