心地よさと安らぎを感じさせる新境地
★★★★☆
卓越したチェロの名手古川展生の6枚目のアルバムです。リーフレットにあるようにルックスもステキですが、クラシック音楽だけでなく、あらゆるジャンルの音楽にチャレンジして自分のものにする貪欲な好奇心に驚かされます。
1曲目の「賛歌」にいきなり引き込まれました。甘く優しい音色のチェロ、全てを包み込むような大きな包容力が伝わってきます。それを受け継ぐ形で伸びやかなオーボエが流れています。この音色は聞き覚えがあるな、とリーフレットを見ましたら、やはり宮本文昭でした。アディエマスのカール・ジェンキンスの曲に塩入俊哉が素敵な編曲を施した佳曲でした。
チャップリン「スマイル」も軽快なアレンジで、オリジナルの雰囲気を残しながら現代風の味わいでボサノヴァの香りが漂う爽やかな1曲となっています。
サーサーンスの「白鳥」の演奏も軽やかで新趣向です。ピアノ・アレンジが変えてあることもあり、新しい感覚が伝わってきました。
クレンゲルの「12のチェロのための賛歌」を初めて聴きました。内省的でありながら、情熱を内に秘めた曲想が心に響きます。チェロの音色を生かしながら重層的に織りなす高貴な織物のような風合いが感じられました。担当プロデューサーの岡野博之氏の解説に、名指揮者ニキシュの葬儀において初演されたという曲だと書かれていました。
ラストにはクレンゲルの「賛歌」を塩入俊哉がまるでフォーレの作品のように純化させ、提示しています。気持の安らぐ演奏でした。
ショパンの「ワルツop.34-2」がラテンの衣を着て「ヴァルス・コン・フエーゴ」となり、目の前に登場しました。このスピード感と色が浮かぶような音色の変化を自在に弾き分けるテクニック。聴きものの一つです。
チェロから詩が聞こえます
★★★★★
このCDの発売記念ライブに行き、迷わずCDを手に入れました。東京都響の主席チェリストなので、クラシックだと思ってライブに行ってビックリ仰天! ピアノだけでなく、アコーデオン、ギターが参加し、音響効果も充実。そして、切なく甘いメロディーから官能的なタンゴまで。ライブの終了がこれほど悲しかったことはありませんでした。そのライブの内容とほぼ同じものが収められたCDです。「クラシックのチェロ」のみを愛する方には不満もあるかもしれませんが、普通よりさらに甘いチェロの音色、丁寧な弓の動きを感じる一つ一つの音、そして、曲だけなのにまるで言葉のように心に響くバラードは、良い音楽を求めておられる方にお勧めです。蛇足ですが、演奏中のチェリスト古川氏は写真より数十倍ハンサム且つセクシーで、最前列は若い女性軍団が占めていました。