「私」が12歳のとき、父の愛人の娼婦が父親と共謀して優しい母親を殺害し、家に住み着いた。服をはじめ母の持ち物を勝手に身につけるその女に対し激しい殺意を抱いた「私」は計画的にその女を殺す...。しかしどうやら「私」は精神を病んでいるらしく、「私」が語るような殺人が実際に起こったのかどうか次第に不明確になっていく。
このような一人称の語り手によって物語を進行させるミステリー上の技巧を「信頼できない語り手」による叙述トリックというのだそうですが、本書はこの「信頼できない語り手」が自ら封印した記憶と過去を蘇えらせようとする物語で、この意味は非常にミステリー的です。しかし精神的に不安定な語り手による結末はあくまでもぼんやりしたままで、果たしてそれが「真実」であったのかどうか読者を最後まで「?」のままに放置します。
映画は2003年公開予定ということらしいので、クローネンバーグ監督がこの素材をどのように料理したか楽しみです。