ベルリン・フィルによるベートーヴェン交響曲全集の金字塔
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クリュイタンスによるベートーヴェンの全集は、かのカラヤンよりも先にベルリン・フィルを使い完成させたものだが、これが実にいい全集だ。
1950年代も終わりの頃に録音されたものにも関わらず、幸いなことにヒスノイズは多めとはいえ、実に瑞々しい音色が聴ける。しかも、このころのベルリン・フィルはカラヤンが音楽監督に就任して間もない頃だったので、フルトヴェングラー時代の音も多少残っているという実に魅力的な時代でもあり、そうしたベルリン・フィルの響きを堪能できるという意味においても大変貴重な全集だと思う。
クリュイタンスの演奏はどの曲を聴いても必要以上に深刻になるところがなく、聴いていても威圧されるようなことはない(もちろん、フルトヴェングラーのようにうむも言わせぬような圧倒的なベートーヴェンや、カラヤンのように切れ味抜群の演奏も魅力的である)。しかし、だからといってゆるいのかというと、そんなことは一切ない。驚くほど緻密で、精密な演奏を要求しているところもあり、構造は揺ぎ無い。
さて、この全集、どの曲もそれぞれに大変魅力のある演奏をしているのだが、偶数番の曲が実に素晴らしい。とても健康的で、色彩感に富み、そして実によく歌う。ポピュラーな「田園」はもちろんのこと、交響曲第8番のゆったりと歌うがごとく演奏は、この曲の決定盤の一つとして挙げたいくらい気持ちがいい。こんなにも気持ちよく偶数番を聴ける全集はそうないだろう(アバドの新録の全集のキレの良い演奏も魅力的ではある)。
もちろん奇数番の演奏だって素晴らしいのだが、偶数番の気持ちのいい演奏を聴きたいと思われて、クリュイタンスの演奏をお持ちでなければ、ぜひご検討頂きたい。
これほど格安でこの素晴らしい全集が手に入るようになるとは贅沢な時代だと思う。
肩の凝らない全集
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ベートーベンの交響曲全集と言えば、蒼々たるものが多くあります。
この全集は、オーケストラたっての要望での演奏です。他のケースでは、サー・ジョン・バルビローリのマーラーの第9番があります。この時も総支配人のシュトレーゼマン(のだめにも同じ名が出てきますね)氏に懇願したそうです。
さて、演奏ですが、オーケストラが指揮者の指示に対して最高の表現をしています。オーケストラと指揮者がこれほど一体化した演奏も少ないでしょう。クリュイタンスの表現も、ドイツ伝統の中にフランスのエスプリを効かせて、見通しの良い判り易い表現にもなっています。初心者の方にもってこいだと思います。重すぎず軽くなりすぎずで各曲の特徴がきちんと判りますので。
最後に、録音が年代を考えると良い方に入ります。これも良い特徴に入ります。