歌舞伎でも又五郎でもなく
★★★★★
テーマは「教育」だ。断言する。
池波正太郎にしては珍しく個人に的を絞ったエッセイ。歌舞伎役者である又五郎の、学生たちに対する厳しさ優しさが印象的である。日本は敗戦と同時に芯の部分を骨抜きにされてしまい、教師たちは持つべき「魂」を見失ってしまった。マニュアルにより育てられた近年の親は誤った「個性」「自由」「平等」を電飾ネオンの如く振りかざしている。真の才能は厳しい教育でしか培われないのだということを忘れてしまっている。サラリーマン(公務員含む)としての出世が「まともな人生」で、芸道を極めることは文字どおり「かぶき者」なのだと、歪んだ中流意識が蔓延してしまっている。
模範解答に自分を合わせることに汲々とし、世間様の顔色を伺うことにせいいっぱいで、自分で問題点を見つけ出して困難を乗り越える胆力の無い若者たちに、日本の将来を任せられるだろうか? そして、そうなった責任は、「経済発展」の名の下に周囲を見ず、面倒なこと厄介なことは考えず、競馬馬のごとく走り続けてしまった世代にある。