夏になれば50度にもなるというチュニジア中央部の古都ケロアン。南下して行けばサハラ砂漠だからか、乾いた風にはどこか砂が混じり込んでいる。美しい旧市街は白い建物が迷路のような道をつくりだし、太陽の光が当たればその道は目映くなる。目映い日差しのなか、ヒジャーブという布を頭に巻いたイスラムの女性や、チュニジア式ドアの前で昼寝している猫たちと遭遇すると、異国情緒が最高に高まる。とにかく猫が多く、道を曲がれば猫に当たるし、基本的にのんびり寛いでいる。ケロアンにはシディ・サハブ霊廟という7世紀に建てられた霊廟があり、現在はモスクや神学校を併設している。アラブ諸国の中でもっとも美しいと言われるほど、素晴らしいイスラミック芸術を堪能できる奇跡の街。その場所で1時間はうっとりと猫も芸術も鑑賞できるだろう。
トゥルッリと呼ばれる円錐形の灰色の屋根と真っ白な筒型の壁を持つ建物がつくる街並みは、鉛筆の削った頭を幾つも並べたようで、世界の中でも特異である。特に灰色の石を環状に並べていった円錐形の屋根は見た感じでは簡単に壊れてしまいそうだが、これがこの地に受け継がれる建築技法で、冬は暖かく夏は涼しいらしい。現在は土産物屋やレストラン、ホテルなどになっており、中に入って見学することもできる。同時にたくさんの猫とも出会う。特にどこのトゥルッリの猫でもないらしいのだが、街の人々に可愛がられ、ご飯をもらい、寝床を用意してもらっている。その代わり、彼らはトゥルッリの前で観光客を呼び寄せる大切な役割を担っているのだ。
ヴェネチアから船で40分ほど行くと、ブラーノという離島がある。とても小さな漁師の島だが、カラフルな家並みが目を引く。実はこの家が愛の結晶とも言うべきものなのである。古くから漁にでた男たちが霧の中でも沖から自分の家を見つけて帰ってこられるようにと、島で待つ女たちが家の外壁に色を塗り始めた。赤やピンク、オレンジやブルー。それぞれが夫婦の愛の色だ。その色に帰ってくるのは男たちだけではない。赤い家には黒猫が、オレンジの色には毛の長い白猫がドアの前でニャーとなく。やがて扉がそっとひらき、当たり前のようにするりと中に入っていった。この島の猫たちにも、それぞれ自分の色があるのだ。
リグーリア海岸沿いにある5つの集落、それがチンクエテッレ。それぞれに多彩な色の家々が所狭しと、ひしめき合っている。断崖にそそり立つ家々を見ていると、この場所での過酷な暮らしが容易に想像できる。事実、近年より前の1000年間、村と村の行き来は船だけで、陸路での手段はなかった。絶壁が続く痩せた土地に家をつくり、ブドウ畑をつくり、その結果、この地独特の味の濃いワインが生まれた。この小さな村で生まれたワインは、古来より王族のためにと人々は知恵を絞ってつくってきた。その信念が今も村に引き継がれている。5つの村のひとつ、ヴェルナッツァで、絶壁をのぼるように村の小径を歩いた。やがて見晴らしのよい場所で、美しいリグーリア海と、色とりどりの家々と、緑の濃いブドウ畑と、それからその信念とは無縁そうな猫をみた。
リオデジャネイロは、年間を通じて温暖で、真夏はアジアの熱帯雨林地帯とヨーロッパの街並みが融合したような雰囲気をもつ。近代建築の巨匠オスカー・ニーマイヤーの建築も数多く、その色使いはブラジル文化の楽観さを感じ、フォルムには女性の柔らかさを感じる。コパカバーナビーチでカイピリーニャを飲みながらボサノバを聞き、夕陽で黄金色に染まる海を眺める。カリオカたちが愛の言葉を交わしキスをする。ロマンチックという言葉がとても似合う街だ。2月下旬に行われるリオのカーニバルの時期は、街は人で溢れかえり、開放感が爆発する。そんなとき、夜になってようやく猫が姿をみせた。遠くでかすかにサンバが流れているが、もうここに人間が来ないと分かるのだろうか。のびのびと体を動かし、やれやれ、という感じに毛繕いをする。