ラヴェル「夜のガスパール」やラフマニノフのピアノ協奏曲第3番、リゲティのエチュードなどといった、いわゆる難曲がどちらかというとリストによって開拓されたテクニックを想像可能な範囲でより難しくしてみた、という感じである一方で、イベリアの場合は、天から全く降ってわいたような特殊技巧を要する。登場する美しく精緻な和声の数々も、全くお目にかかることのないような音の組み合わせばかりである。
ラローチャはこうした曲を本当の共感を持って弾き抜いている。もはやあえて賛辞を述べる必要がないほどの名盤なのだが、技巧的課題を完璧に克服したうえでの、文字通り身体から湧き出るリズムと音楽が聴かれる。
若い頃のEMIへのイベリア録音は、確かにこのデッカ録音よりも活気に満ちたリズムで、技巧面の切れ味もより鋭いが、たとえばエル・アルバイシンやエル・ポーロといったスペイン的叙情性とでも言うべき要素が強い曲におけるラローチャの解釈は明らかに深みを増しているし、デッカによる録音はそうした深みのある響きをずっとよく捉えている。