積極的な表現者としての近衞が見えてきます
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1960年ごろ、旧日本フィルを指揮してもらおうと、渡邊暁雄がレオポルド・ストコフスキーをニューヨークのアパートメントに訪ねた時、ストコフスキーは開口一番、「コノエは元気か?」と訊いたそうです。
1930年代後半、近衞秀麿は渡米し、ストコフスキーと親交を深めます。ストコフスキーの計らいで、ストコフスキーが当時常任だったフィラデルフィア管弦楽団を指揮し、トスカニーニが就任する以前のNBC交響楽団の指揮者陣にも加わります。ストコフスキーが紹介状を書き、全米のオーケストラを巡演する計画が立ち上がりましたが、日米関係の悪化から、これは実現せずに終わり、近衞はベルリンに向かうことになります。
なぜここまで近衞とストコフスキーについて書いてきたかといえば、この「新世界」にはストコフスキーに相通ずるものがあるからです。そこにあるのは、徹底したスコアの分析と解釈の構築です。例えば、第四楽章の有名な第一主題。あの直前のリタルダントは両者に共通しています。このように、表現者としての近衞が作品とどう向かい合ってきたのか、それが垣間見える、素晴らしい演奏です。