『A People's History of the United States』は、生き生きとした読みやすい文章により一貫して高い評価を得ており、一部を改訂して内容を更新した版が歴史の教科書として使用されている。著者のハワード・ジンは、アフリカ系アメリカ人、女性、アメリカインディアン、反戦主義者、そして低所得労働者など全国民の間でかき消されがちな声を巧みに物語の中へ取り込みつつ、クリストファー・コロンブスの新大陸発見から後書きで述べるクリントン政権までアメリカの歴史を広範囲に展開している。
   教育者、歴史家であり、20年以上にわたり社会活動に従事してきた著者は、トレードマークとも言える視野の転換を駆使して次のように説明する。「歴史を語るに際して、コロンブスを欠席裁判にかけて非難し糾弾すべきだ、というのは私の歴史に対する見方ではない。そのようなことを今更行っても無意味であるし、学問的課題としても何の役にも立たない。ところが、嘆かわしいと言いつつも、発展のためには避けられない犠牲として残虐行為を容易に容認する態度は（西洋文明に対する救済としての広島とベトナム、民主主義に対する救済としてのクロンシュタットとハンガリー、全人類に対する救済としての核拡散など）、現在でも我々が陥りがちな傾向であろう。こうした残虐行為から我々が未だに脱却できない1つの理由は、放射性廃棄物をコンテナに詰めて地中に埋めるが如く、他の事実と一まとめにしてこれらの行為を葬り去る術を身につけてしまったためである」
   アメリカの歴史をひも解くことなど中学校の教科書以来だという人にとって、あるいは専門的に学んだ人にとっても、今まで見聞したことのない歴史の裏側を垣間見ることができる。これまで顧みられることのなかった史実を斬新な語り口で綴った『A People's History of the United States』は、アメリカの豊かで波乱に富んだ歴史を新鮮な視点からたどってみたい人にとっては、まさに必須の書である。（Amazon.com）