笑いながら、考えさせられる
★★★★★
オーディオとジャズの世界で、岩手県一関市のジャズ喫茶ベイシーのことを知らない人はいません。この本は、ベイシーのマスター菅原正二氏のオーディオとジャズに関するエッセイをまとめたものです。
が、本書をただのジャズ/オーディオ本ではありません。もちろん、ジャズ/オーディオ本としても超一流ですが、随所に鋭い文明批評が散らばっており、生き方の指南に満ちています。これを名著といわずして何といいましょうか。
クラシックが評論家による「演奏批評」に終始し、そこから抜けだせないまま現代と乖離し、そのことに気がつかないまま落ち目に向かっている今(以上はクラシックファンとして哀悼の意を込めて書いた)、ジャズは、小さく狭いけれども、確かな成熟をもたらした。本書にそれが集約されています。
ところで、菅原さんはあちこちに出かけません。お店を守らなければならないという職業柄、そうなのです。ところが、全国から(いや、世界から)菅原さんのところにいろいろな方がやってきます。
こちらから訪ねるのではなく、「いながらにして、大切な人を引き寄せる」のが菅原さん流です。これを菅原さんは「居座る原理主義」(危ない!)と称しています。
「国家の品格」よりも、ぼくはこういう本に共鳴します。