大人のあなたへ送ります
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何回借りたことでしょう。自分が癒されたい時に図書館へ借りに行きます。そして、元気になった頃にまた返しに行きます。その繰り返しです。それがいいのです。図書館で会うのを楽しみにしています。自分の手元にないことがいいのです。
若い頃は意地悪で、いたずらで、けんかばかりしていた魔法使いのおばあさんも、年をとった今ではすっかりしょぼくれていました。そしてなんだかとんがっていて、世間から忘れられているというか・・・そんな魔法使いにも唯一心を許せるのが猫のトラジ・・・ある日夕食の味噌汁の実にとしじみを買ってきました。そこからの、二人のやり取りがなんとも味があるのです。魔法使いはいびきをかいて安心しきって眠っているように見えるしじみを食べてしまうことに、躊躇し始めます。それをトラジが、「同情したらあかんよ」と言うのです。「熱いところにサッといれれば、しじみはアホだから、なにも感じはしませんで」とも・・・その中で、魔女の葛藤が始まります。結局、今晩は、実なしの味噌汁に・・・そんな魔女にトラジはそっぽをむいてしまいます。そして次の日も・・・しじみの安らかな寝顔にトラジまで「わしらはアホや」と今晩もまた実なし味噌汁で我慢します。その夜、しじみたちの泣き声が聞こえてきます。迷子の子どものように・・ワーッと泣いて泣いて・・・そんなしじみに同情して、海に連れて帰ろうという事になり、貧乏な二人は街頭で募金集めをはじめます。
しじみに出会ったことによって、だんだんと顔つきが優しくなってくる魔女。そんな魔女とトラジのやり取りになんとも癒されていく私です。そして、募金活動にくたびれた二人を慰めるしじみの歌声も、私の心に響いてきます。
まぼろしの名作
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自分が4・5歳のとき、近所の図書館から借りて、親によく読んでもらってました。
中学生の頃から親と私共々「あの本よかったねー。欲しいねー」と本屋に行くと必ず探すようになり、それから10数年、再刊行され
やっと手に入れられました。
最初の初版が1984年で、1980年生まれの自分が手にしていた時には世に出て間もないはずにのに
何十回も何百回も読まれ、10年以上図書館にいるほどの読み込まれ様で
その人気の高さを認識しました。
偏屈でアンパンマンの様な子供子供した絵本が苦手だった子供の頃の自分がすんなり受け入れられた本、今でも十分満足できます。
この本がもっともっと多くの人に読まれると幸いです。
おばあさんの気持ち
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何気なく手にした1冊でしたが、不思議と救われる気持ちになる本でした。
内容は結構とっぴなところがあって、思わず笑ってしまうところがあるのですが、子供はそこのところをぜんぜん変だと思っていない様子なのがすごいなと思いました。
シジミが歌うところや、猫がしゃべるところはファンタジーなんだとわかるのですが、電車賃を得るために シジミを片手に募金を募る老婆が街頭に立つところは、ある意味シュールでなんだか哀しいような、老いることへの複雑な気持ちが掻き立てられます。
それから、シジミを電車に乗せるためにシジミ1匹ずつの切符を猫が用意するあたり、自然に対する敬意を感じて、ただ笑い飛ばせない静かな思いになります。
年寄りの奇行とも映る募金活動や、シジミに切符を用意させるところなど、大人の私からみると滑稽に思えるシーンをこどもがちっともおかしいと感じていないところを観て、作者の小島さんが30代でこの本を書かれたときに感じていた、年寄りの人への敬意や、自然への敬意を子供は自然と当たり前のことと思っているのがわかり、2重にも3重にも素敵な1冊だなと心に残りました。この本を書かれたときの小島さんと同年代の今の私。。。いろいろ 反省させられます。
知る人ぞ知る名作
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この本、あまり知られていないのかもしれません。1984年にひっそりと刊行され、細々とファンを獲得し、2005年にめでたく復刊された知る人ぞ知る名作だと思います。
登場人物は隠居生活の魔法使いと、きびしい表情で魔法使いを諌めるシビアな猫のトラジ。二人はある日、海からしじみをとってきてささやかな夕餉をひらこうとしていました。そんな時、お味噌汁にしようと思っていたしじみたちからプチプチと寝息が聞こえてきて・・・
まず、本当にストーリーがかわいいです。そして、それにマッチした素朴な絵がいいです。
ねこのとらじ、かなりいい味出してます。あんな猫いたら欲しいですね〜怠けた時に容赦なく叱ってくれそうです。しかしそのトラジでさえがまいってしまうしじみたちのかわいさ。そのきれいな歌声。歌声はもちろん聞こえてこないのですが、きっとこんな歌なのだろう、という想像がはたらいてしまうくらい、しじみのすがたの描写はすてきです。
昔の元気を失ってしょぼくれて過ごしていた魔法使いも、最初はしじみのお味噌汁のことしか考えていなかったトラジも、しじみたちと触れ合ううちに、とってもやさしい気持ちをもらいます。最後の結末も、うらやましい!の一言。
本当に、なんて可愛い物語なのでしょう。古臭さも全くありません。とても新鮮です。
表紙ではなかなか子どもに手に取られにくい本だとは思いますが、この本に出会えた人はほんのちょっとですがあたたかい幸福をもらえますよ。