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検証 戦争責任〈上〉 (中公文庫)

価格: ¥600
カテゴリ: 文庫
ブランド: 中央公論新社
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鋭く重く響いている本書からの問い ★★★★☆
 毎年八月になると各メディアは戦争番組を報道する。ある日テレビで、「上官の命令で中国人をこれした(刺す身振り)」と話している八〇代の元帝国陸軍兵士が出ていた。傍らの夫人は「初めて聞いた話」と驚きを隠さない。敗戦後六四年、無数の無名の兵隊たちの肉声は埋もれたままだ。一人の兵隊がわかるのは戦局のほんの一部だとしても、生存者は知りえた戦場の実態を後世に伝えるべきだろう、と思う。他人に正確に伝えることは不可能にしても。
《一九四五年の敗戦から六十余年が過ぎた。この間、日本の「戦争責任」について、国民的な広がりをもつ議論や本格的検証作業は、ほとんど行われてこなかった》と冒頭に書き、《そもそも、日本人自身が「A級戦犯」についての検証を怠ってきたがために、戦争責任についての基本的な視点や認識をもてないのではないか。過去から目をそむけがちな姿勢も、戦争責任問題の呪縛からいつまでも逃れられない原因になっているのではないか》と続ける著者の検証の視角は以下の五つ。
 @なぜ、満州事変は日中戦争へと拡大していったのか。A勝算がないままアメリカとの戦争に踏み切ったのはなぜか。B玉砕・特攻を生み出したものは何だったのか。Cアメリカによる原爆投下は避けられなかったのか。D東京裁判で残された問題は何か。
 この五つの視点から、この「昭和戦争」の責任を総括し責任者の実名を挙げる。
 本書は、小泉首相による郵政解散の最中に読売新聞社内に設置された、記者たちによる「検証委員会」を著者に、〇六年に刊行された単行本を今夏、文庫化されたもの。
 無数の蟻が突然瓶の中に入れられ、遠く運ばれ、瓶を逆さにされて落ちた所は戦場。上の方で決められた作戦の命令が下れば、何万の人間が動き、死んでいく。
 上の者の責任は重い。
 一つの法律がつくられることで私たちの生活は丸ごと変わってしまう。例えば労働者派遣法の施行で非正規社員が生み出され、格差が拡大した。派遣・パート社員は身を持って知った。
 為政者の責任は重い。
「昭和戦争」から何を学ぶか――。本書が投げかけた問いは現下の日本にも鋭く重く響いている。若い人にこそ読んでほしい本だ。