冷たくて熱い、繊細で美しい音色
★★★★★
諏訪内晶子のライブは2度ほどしか観たことがない。どちらも協奏曲だったのだが、彼女は颯爽と舞台に現れ、自分の演奏が終わるとすーっと舞台から消えていった。それは、冷たいフィギュアのようでもあり、主役は私ではないという主張のようにもとれた。
そんな彼女に、シベリウスのヴァイオリン協奏曲はとてもよく似合っている。正確無比な冷たい機械のように、なんの感情も表にあらわすことなくヴァイオリンを奏でる。息もつかせぬスリリングな展開なのに、冷たく煌めく光が微かに見えるだけだ。再生装置から流れ出るドルフィンの音色が、鋭い刃物のように心を貫く。指揮のサカリ・オラモには、ラトルが去った後のバーミンガム市交響楽団でのシベリウスの交響曲全集があるが、こちらも大自然を感じさせる名演で、まさにうってつけのサポートをしている。
カップリングのウォルトンの協奏曲は、ハイフェッツの委託により完成したものだが、現在ハイフェッツの愛器ストラデバリウス「ドルフィン」を貸与されている彼女ならではの演奏。どちらも名演。