バラエティに富んだ演奏から何を想うか?
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「荒城の月」には、いろいろなアレンジがあるとは何となく思っていたが、何よりも重要なアレンジが山田耕筰によるものだということ・・・私は、そのことを海老沢敏著「瀧廉太郎−夭折の響き」(岩波新書)で読んでいたのであるが・・・そのことを、このCDの20件の演奏から思い知った。確かに、添付された原曲の楽譜を見ると、第2小節の8分音符のひとつに♯が着いている。それに対し、山田耕筰編のそこには♯がない。さらに、原曲はロ短調、アンダンテで8小節からなっているが、山田編ではニ短調、レント・ドロローソ・エ・カンタービレで16小節、したがって前者は8分音符が基本のところ、後者は4分音符が基本となっている。
このCDに収録された20件の内、瀧に縁の深い竹田市の児童合唱団の合唱とスコーピオンズのハードロックの2件のみが瀧廉太郎の原曲に基づいている。他は、山田耕筰編曲のものである。我々が何気なく歌うとき、それは多分、山田編のそれであることが多いのではなかろうか。いずれにせよ、この曲が日本人の心をとらえる名曲であることには違いない。
私は、この曲をはじめ、瀧の曲のほとんどが、日本的な情感を西洋音楽の枠組みに、この上ないほどうまく取り込んでいると思う。上記の♯も、瀧のその辺りを山田との対比で示しているのではなかろうか。しかし、その正否はともかくとして、彼の力量をもってすれば、更に、日本古来の、それも特に民衆の歌の伝統を、東西の違いを超えて現代の、あるいは未来まで生きる音楽として我々の前に現してくれたのではないか、と思うのである。このCDを聞いた後、私はそんなことをまじめに考えている。
何はともあれ、まずは、このCDでバラエティに富んだ演奏を楽しんでみよう。