さざ波の光
★★★☆☆
主人公のゆみ子は少女時代に祖母が失踪、そして今度は、夫が自殺するという二つの死から逃れられないでいた。「なんで出て行ってしもたんやろ」「何で自殺なんかしたんやろ」繰り返される問い。その悔恨が、ゆみ子の心を大きく占める。再婚しても、心の中で亡き夫に話しかけるゆみ子の寂しさ、切なさがじーんとくる。ラストの静寂で温かい空気の中に「それでも私は生きていく」と言っているゆみ子を感じた。
逝ってしまうより、逝かれる方がつらい・・・
★★★☆☆
「あの人はなぜ、私をおいて自ら命を絶ったのだろう?」
死んでしまった元の夫に、心の中で語りかけるゆみ子。それは再婚を
してからもやめられなかった・・・。幸せになりたいと思いながらも、
過去にとらわれ続ける女性を描いた表題作を含む4編を収録。
この作品の中で一番印象に残ったのは表題作である「幻の光」だ。
突然自ら命を絶ってしまった夫。その理由が見つからず、常に、
とまどい、寂しさ、そして取り残されてしまったような孤独感を
抱えているゆみ子。「なぜ死んだのか?」ではなく「なぜ生きられ
なかったのか?」、その理由が分かったときは、人としての寂しさや
切なさを感じた。逝ってしまう者よりも、残された者の方がつらい
ときもある。どの話もあまり明るさは感じられない。読後、心に
重りを抱え込んでしまったような感じが残った。
不条理な死と向き合う本
★★★☆☆
死には、歳を取って皆に看取られて行く(いわゆる歳の順の)死と、突然消えていく死の2種類がある。
本書では、突然消えてしまう死が含まれてる短編小説を4作収録している。
突然の死で、取り残された人間の悲しい現実、悲しい思いを綴っている。
ゆっくり染み渡ってくるような喜怒哀楽。いいっすわぁー。
★★★★★
心の奥に染み渡ってくるような喜怒哀楽を味わうことができた。物語の中で主人公とともに悲しんだり怒ったりしているのだが、一番最後にすぅーっと。まるで朝を迎えるかのように晴れやかになる。
そんな まーーーったりとした心を手に入れることのできるとてもいい一品。
死に魅入られて
★★★★★
宮本輝のマスターピースの一作である。
話自体は大した話ではない。主人公の夫は 主人公と子供を残して 突然自殺してしまう。主人公はぼう然とした日々を大阪ですごす。やがてやってくる新しい再婚の相手は 能登半島の男やもめである。主人公は嫁いで行く。日本海の荒れた海を見ながら 主人公は しかし相変わらずぼう然としている。
全編を「死」が覆っている。日本海の荒涼とした風景に宮本は「死」を混ぜ合わせて なんとも表現できないような風景画を描き出している。生きる力を喪うことに魅かれつつある主人公を脇から支える女漁師等のたくましい女性像もたくみに描かれている。読んでいて最後に見えて来る明るさは 「錦繍」にも共通するかと思う。
地味な話ながら熱狂的なファンがいると聞く。そうだろうなと思う。「死」に見入られながらも引き返してきた人には特に魅力的な一作なのではないかと思う次第。