『夏の夜の夢』の録音を1957年にアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮してフィリップスに遺しているセルですが、それから10年を経て1967年に録音された、「自分の楽器」であるクリーヴランド管弦楽団を指揮してのこの『夏の夜の夢』は、コンセルトヘボウとの演奏とは比較にならないくらいに優れています。しばしば音質が悪いなどと評され、バーンスタインの陰に隠されて……と言われがちなセルのCBSへの録音ですが、少なくともこの盤に関しては、演奏は云わずもがな音質の点でも文句の付け所が無いように思われます。試しにこの曲の「序曲」をお聞き下さい。管楽器による導入に続くヴァイオリンの微音による合奏を耳にするだけで、この演奏が並々ならぬものであることがお分かり頂けるものと思います。
精緻であるばかりでなく、溌剌としまた愉楽に満ちたこの弦楽合奏を耳にしたら、どうしてその後に続く演奏もまたきっと素晴らしいものであるに違いない、と期待せずにいられるでしょう?
蛇足ですが、『フィンガルの洞窟』も文句無しの名演です。
……このCDは聞かずに済ませられるようなトラックは一つとして無い、とても素晴らしいCDです。