他愛の無い話なのだけど
★★★★☆
小学生のとき、『オバケちゃん』と『ねこによろしく』がとても好きだった。20年ほど経った今、この二作品がおさめられた文庫版の本書を読み直して思ったこと、それはあの頃なぜあれほどこの話を愛したのか、ということだ。
といっても今読むとつまらないと言いたいのではない。たしかにストーリーは他愛もないことこの上ないのだが、拾おうと思えば「自然破壊」「急激な社会の変化」「ボランティア精神」など今日的なトピックスが行の間に見つけ出せる。そしてこれが著者の童話作家としての力量なのだと思うのだが、困惑して知恵を絞るオバケちゃん一家や「ねえねえ」「にゃあお」とウロウロする白ねこのホワイの姿をもってして、下手をすると説教臭く野暮になる要素を童話の中にごく自然に取り込んでいることだ。
著者が先ほどあげたようなトピックスを意識してこの作品を作ったのかどうかは分からない。しかし子どもの頃オバケちゃんやホワイに感情移入し、一緒に困ったり笑ったり、苦しみを味わった経験は、経済効率が(スローライフという言葉を対置して喧伝しなければならないほど)生活にしみ込んだ今を、ごく普通のサラリーマン・消費者として生きる自分に、シビアな現実から逃れることをせずとも、失われない「なにものか」大切なもの、心の支えとでもいうべきものを作ってくれたと思う。