リンチ世界の要素としての、エキセントリックな人物(脇役)、変態的な性、暴力、そして眩暈を感じる位対照的な美しい色彩と音楽。
これらはこの作品ですでに完成されているが、本作品や「ワイルド・アット・ハート」、「ツイン・ピークス」ではそれらの要素は「純愛」をより際立たせるために使用されている。
近年の作品でのリンチの語りは「ナイトメア」を語るが、本作品では「デイドリーム、白日夢」が描かれる。それはジェフリーがサンディに、歌手のアパートに忍び込むプランを話した時にサンディが言うセリフにはっきりと言及されている(「それはデイドリームのよう。実際に実行することは別のこと。」)。
この後ジェフリーが経験する出来事は、純真無垢なサンディとの青春時代の恋愛から大人のドロドロした愛憎の世界にジェフリーを放り込み、そして自分の身を危険にさらしても守る正義の重さと、サンディの心を傷つける苦悩を通過させて、彼を大人として成長させるのだ。
だから作品の中でのクライマックスはフランクとジェフリーの対決では無く、裸のドロシーをサンディの前で抱きしめざるおえないジェフリーの苦悩とサンディの流す涙だ。
サンディの純真無垢さもドロシーやフランクのエキセントリックさも一歩間違えると笑ってしまうくらいの極端さで、それをそうは感じさせないのは、サスペンスフルなプロットとリンチの語り口調の巧みさのせいだ。
エンディングはすがすがしく、この甘酸っぱい美しさがこの作品に特別の輝きを与えている。
耳の穴が、平和の裏に隠された異常な事件への入り口を象徴しており、耳を発見した主人公ジェフリーが事件を調べ、自らも巻き込まれていく期待通りのストーリーが展開される。描写は、この監督ならではの何ともいえないまがまがしさに彩られており、惹きつけられる。出演者はいずれも個性的で、監督の意図した世界観をよくあらわしている。好き嫌いはあるだろうが、完成度の高い傑作。