深い音楽的素養を必要とする書
★★★☆☆
様々な歌曲やオペラに関心があり、自分の知識の体系化をはかる意味合いもあり読了しましたが、アマチュアの音楽好きには手ごわい内容でした。啓蒙書のような書名ですが、イタリアのオペラや声楽を専門領域とする音楽史や音楽学、声楽の研究者による専門書の体裁をとっています。
各人の関心領域に応じて、各章を分担執筆しています。その章立てについては、一定の編集企画があったようですが、このジャンルを研究テーマとしている論文集のようでした。
編者の森田学氏によるまえがきのコメントが本書の性格を現していると思います。「本物志向の人たちに応えるべくして編纂されたのが本書である」「これまでの単なる概説書や世間に溢れるお手軽本とは趣を異にしている」「従来型の著名な作曲家やその作品だけを網羅的に解説しなければならない概説書とは違った独創性や自由さを持っている」と述べていました。
各章では関係楽譜や図版、歌詞と対訳も掲載してあり、理解の助けになっています。監修者で執筆者である東京藝術大学名誉教授で声楽家の嶺貞子氏の「イタリア近代歌曲」と「あとがき」に関心を持ちました。イタリア歌曲を日本に根付かせる努力が過去にも今も感じられます。
内容は、ダンテ『神曲』 『カンツォニエーレ』における「聖」と「俗」―ダンテとの比較を通して ペトラルキズムと音楽―マドリガーレにおける詩と音楽の新しい関係 ルネサンス宮廷社会と音楽 イタリアの劇場と舞台背景画―古代劇場からオペラ劇場まで バロック時代の声楽曲における劇的表現―情念の表出と燃焼 メタスタジオの音楽劇 ゴルドーニとオペラ台本 19世紀のオペラ台本のしくみ イタリア古典歌曲 近代歌曲の詩人たち イタリア近代歌曲