軍事論にとどまらない、世の中に広く通用する戦略論
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マハンやクラウゼビッツなど、有名な軍事戦略家に比べると、ワイリーの名前は必ずしも知られておらず、また米海軍で必ずしも出世した人物ではないが、彼の戦略論は、戦略的重心の議論をはじめ、既存の戦略家たちの諸理論を統合し、止揚(アウフヘーベン)した極めてユニークなものである。単なる軍事研究のみならず、私のような外交・安全保障実務家、さらには政治家、ビジネスマン、学者の方々にもご一読いただいて、決して損はない名著と思う。私はこの本を何回も読んだ上で、自分でメモにもまとめるなど熟読した。
ただし、前半の軍事戦略理論は非常に参考になるが、後半の軍種別の戦術論については、軍人、自衛隊関係者以外の我々には、今一つピンとこない話かもしれない。
前人未到の地に向かう
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本著はこれまでハードカバーで出ていましたが、このたびソフトカバーの普及版
として生まれ変わりました。「クラウゼヴィッツ以来の戦略家」「過去100年
以上にわたって書かれた戦略書の中で最高のもの」と評される著者・本著がより
多くの目に触れることになるのはすばらしいことです。
ここでいわれる戦略は「戦争に勝つためのアイデア、理論」のことで「敵との
戦闘に勝つためのプラン」である戦術とは違います。この点をわきまえること
が本著のキモとなります。
ワイリーさんはまず最初に、戦略のコンセプト・理論の存在に気づいた人(=戦
略思想家)は歴史上確かにいたが、その数はあまりに少なかった。こういう戦略
思想家の頭脳の動きを少しでも理解できれば、その理論を詳しく分析できる、と
考え、戦略思想家が使う考え方のパターンを分析し、彼らがどういう考え方を
使っているかを推測したいと述べます。
具体的にいえば「戦略思想家のよりよい理解」「彼らは何故このような意見にた
どりついたか?」「なぜ将軍は兵士のように考えるのか?」「なぜ提督は水兵の
ように考えるのか?」「なぜ飛行機乗りは水兵や兵士とは別の考え方をするの
か?」「これらのうちどの考え方がどの状況に一番当てはまるのか?」といった
疑問に応える内容です。
ひとことでいえば、軍種ごとの意識や考え方の相違の根本を見極め、よりよい戦
略づくりに資するための「総合」に必要な理論枠組みをいかに作るか、が理論立
ち上げに当たっては重要なんだ、ということでしょう。
残念ながら学者はこういう事から目をそむけ、無視を続けてきたため、「戦争研
究」はそれまでまったく行われてこなかったとも指摘しています。
本著は、前人未到の地に向かった著者が後世に遺した総合戦略設計図といえる内容
をもちます。コントロールということばに関心があるひとは手にとったほうがいい
と思います。