実践的に役に立つAiの解説書
★★★★☆
オートプシー・イメージング(autopsy imaging, Ai)は,正式には死亡時画像(病理)診断と訳すのだそうです.人間の死の尊厳を究極的に担保する手段として,死亡の原因が何であったかを科学的に検証することの意義については改めて述べるまでもないでしょう.進歩した画像診断法を死因の究明に応用することは,解剖検査の弱点を補完する検査手段として有力であることは,急性期内因性死亡例を多く扱う医療人なら誰でも経験として知っていることです.
本書は日本医学放射線学会の検討委員会のAiの普及と理解に関する提言,蓄積された実際例の集積に基づいて編まれており,「Aiの概念と歴史」(第1章),「読影方法」(第2章),「症例提示」(第3章),「社会への寄与」(第4章)に分けて問題提起型の解説が試みられています.読影ガイドと銘打ってはいますが,実際の症例提示の部分が66ページと全体の1/3に過ぎない点で少々物足りない感はあります.また,画像診断のモダリティに関してもCT画像が主体であり,おそらく軟部組織や骨格の損傷の検出により威力を発揮するであろうMRIの意義が十分に紹介されていない点は発展途上の検査手段なのだなと思います.写真よりも文章量が多いために,実際の画像の解説(キャプション)が言葉足らずで,画像診断に不慣れな人には判り辛い点も不満です.
しかし,Ai検査の実施手順や方法,社会的な意義(特に検案書の書き方),病理解剖や行政解剖との補完性の議論が多数の専門家により紹介されている点は参考になります.また,早期死体現象や蘇生処置の結果により出現する臓器の画質の変化,血管内空気像,射創・刺創の不明瞭な遺体での弾創や弾丸破片,成傷器の同定例などが紹介されている点は勉強になりました.実際に撮像を行う放射線技師にとっては,生きている人の撮影とは異なる症例ごとの撮影条件の工夫が紹介されており有用です.本書は,放射線科医のみならず,病理医,法医学の専門家,検視官にとってAiの懇切丁寧な入門書となっており,お薦めです.