最近の作品はイマイチ
★★☆☆☆
エッセイも面白く読めるが新井素子さんの本は初期のが断然よかった。“あなたにここにいて欲しい”“2分割幽霊奇憚”“ディアナ・ディア・ディアス”“いつか猫になる日まで”…等々。しかし“ブラックキャットシリーズ”あたりからだんだんこの作家の作品に熱中しなくなった。それでもポツポツ新作がでる度購入してきたが…。この作品の陽湖の恨み節は不快。仕事の為に子育てを他人に丸投げしたくせに、産んだだけで子どもからは一番愛情が貰えて当然と考えてるところがとても図々しい。
懐かしの不思議ワールド
★★★☆☆
以前良く読んでいた新井素子作品
久しぶりに読みましたが、新井さんの不思議ワールドにたちまち引き込まれて行きました。
実のお母さんの仕事の関係で幼い頃から母に代わり面倒を見てくれていた、
やまとばちゃん(やまとおばちゃん)と澪湖がこの物語の中心
大好きなやまとばちゃんは、愛娘を亡くして大きなショックを受けているはずだから、
あたしが力づけなくちゃ。
でも、それにしても、何かがおかしい。
澪湖はその謎を探り始めるが…。
オタク友達に相談して導きだした答えとは…
現実世界と現実から離れた世界での葛藤なんかが描かれ、
不思議ワールドの中にも悲しさや切なさが込み上げてくる様な内容でした。
登場人物が少ないので、それぞれの人物描写が細かく性格もわかりやすかったです。
余韻が残る1冊です。
食い足りない
★★★☆☆
新井素子さんの小説は、初期の「星へ行く船」あたりから読み続けていましたが、最近縁遠くなってご無沙汰してました。
それが、たまたまこの本が出たことを知り早速購入しました。
新井素子さんのSFは、“いかにもSF”という感じのは多くなく(「チグリスとユーフラテス」あたりが数少ない“いかにもSF”かも)、日常に絡めたSFが多いですが、本作も日常にSF的なものを忍び込ませたといった趣の作品です。
そして読んでみた感想ですが・・・・いまいち食い足りない。
お得意の女性の心理描写は見事なもので、これぞ素子節という感じですが(いつものようにかなり誇張されてはいますが(笑))、陽湖の章の必要性とか、推理の過程が唐突だとか、いまいち得心が行かない部分が多く感じます。
う〜〜ん、次回作に期待・・・・でしょうか
設定はSFですが
★★★★★
タイトルからは何となくサイコホラー系の作品を想像しておびえながら読んだのですが、
ちゃんとした(?)SFだったのでよかったです。
あらすじは一文で足ります。和(やまと)の姪である澪湖が和おばさんは変だと気付き、
その謎が解明される(おおおっ!シンプル!)。ただ和と和の謎に関して、和本人も含め
た家族の長年蓄積された様々な「想い」が渦巻いており、その「想い」を丁寧に描いたの
がこの作品です。つまり設定はSFですが実際の中身は人間模様と考えます。
澪湖と大介の章では和への優しい「想い」がつづられますが、陽湖の章では和への複雑な
感情、姑と同居した嫁の悲哀、全く家事ができない夫への不満などが延々とぶちまけられ、
「想い」というよりは、「呪詛」に近いものがあります。澪湖と大介はこの陽湖の不満に
全く気付いていないのか?実は私にとって、そこがこの作品の中で納得がいかないところ
であり、「おまいら陽湖のことをもう少し考えろよ!」と言いたくなったのでした(本筋
に関係ないところで恐縮です)。
読後感は和の孤独感や諦観が伝わってきてかなりせつないです。和の内面があまり描かれ
なかったので、和が主人公(一人称)の話を読みたい気もしますが、それはそれで哀しい
ストーリーになりそうですね(続編が書けそうな設定ではあります)。
私も新井先生の長年のファンです。新井先生は寡作であり、本音を言えばもう少し執筆の
ペースを上げて欲しい。でもそれで作品の質が落ちるようなら、時間をかけていいものを
書いて欲しいとも思っています。個人的には「扉を開けて」、「ラビリンス−迷宮−」、
「ディアナ・ディア・ディアス」の世界の話が好きです。確かあの世界の赤い魔の月は人
工物(コロニーでしたっけ?)なんですよね。その人工物がらみの話が読みたいとずっと
思っていて・・・。いつか書いてくれないかなあ。
長文失礼いたしました。どうしても好きな作家の作品のレビューは長くなってしまいます。
ご容赦下さい。
パラレル・ワールド・トリッパーが「もいちどあなたにあいたいな」と思う話。
★★★★★
日本SF作家クラブ会長(15代目)(2009/10〜)の新井素子先生の久々の長編。
ジャンル的にはSFに属するのだが,SF的な要素は前提条件で,なぜ世界がそうなのかの考察(一例を挙げれば,トリッパーの唯一性やパラレル・ワールド間の距離(違いの大きさ,そしてそれが離散的なのか連続なのか)など)はなく(一般人を主人公にする以上,当然そうなる),いかにもSF的な物語の解決も,(めでたく元の世界に戻れました的な)不自然なハッピーエンドもない。内容的には実は普通小説。
そして,作者の他の作品と同様,非常にリーダビリティが高い(読みやすい)がゆえにかえって,精緻な小説の技巧も含め正当に評価されにくい作品であるように思う。
パラレル・ワールド・トリッパーという解釈は,オッカムの剃刀のごとく他の可能性をつぶすことによってしか得られない。そのつぶし方から見て,パラレル・ワールド・トリッパー本人以外による,パラレル・ワールド・トリッパーの存在の認識は奇跡でしかないと思わせる。そのことは,物語世界におけるトリッパーの唯一性を否定する方向に働くわけであり,かつ,現実世界において仮にパラレル・ワールド・トリッパーが存在しているとして,そのことを認識できるかという問いを我々に突きつける。
傑作。