”つじつまの合わない”悲劇
★★★★★
ほんの100年ちょっと前、人の命はこんなに軽かったのか。
幕末に実際にあった天狗党の乱を”山田風太郎にしては”かなり脚色を抑えて、しかも30年後の生存者の回顧話という形できわめて淡々と語っている。
まったく”つじつまの合わない”事由によって虫けらのように死んでいく人々、男達の勝手な”大義”に翻弄される女子供。作者の代表作である忍法帖シリーズにも共通するテーマであるが、奇想天外なエンターテイメント性がないぶんよりストレートに伝わってくる。
そして、ラストに語られる挿話がこの実際にあった悲劇に対する作者の鎮魂として、ほんの一筋の救いの光となっている。
作者が歴史小説家としても超一流であったことを証明する一冊。