世界的経済不況下でのドイツの取り組みが日本にとっても示唆的であることを知る書
★★★★☆
あとがきによれば本書は2008年9月にドイツに取材し、09年8月出版の、まさに最新ドイツ事情を綴った一冊です。
二人の執筆者はいずれも関西大学の研究者。一人はドイツ文化論とヨーロッパ文化論が専攻。もう一人は近代ドイツ文学や日独の戦争責任論比較などが専門とのこと。
しかし本書の内容は社会保障や移民政策、農業や環境行政など、政治経済の諸問題にかなりの頁を割いています。
ドイツは二大政党CDUとSPDによる大連立政権下にありましたが、2009年9月の総選挙によってそれは解消されることになりました。
新自由主義的路線と左翼党的路線との綱引きが行われたドイツのこれまでの大連立は、政権交代を経て小泉改革路線からの軌道修正が始まった現在の日本にとっても遠い国の話ではありません。その意味で本書は示唆に富んだ部分が多いと感じました。
また一方で、日独間の決定的違いの一つはキリスト教であるなと感じさせる書でもあります。
著者は国家の社会福祉政策が万全に機能しなかった場合、ドイツでは中世以来、教会がその肩代わりをしてきたことを本書の中で再々指摘しています。
ですからドイツでは、現在の未曾有の不景気を乗り越える一つの方策として例えばワークシェアリングへの取り組みが広がっていますが、それが日本以上に成功しているようなのはキリスト教文化に基づくボランティア精神がドイツには根強くあるからだとのことです。
社会からこぼれおちた者をキリスト教精神や教会ネットワークが救ってきた歴史については、アメリカの新自由主義経済政策について論じた本でも読んだ記憶があります。
キリスト教的精神と社会構造が存在しない日本で、アメリカ的市場経済を形だけ真似ると大きな痛手を被ることになる。ドイツ事情を論じた本書を読み、経済政策を進める上で経済外の文化事情にも目配りをしなければならないのだなという意をますます強くした次第です。