なかなか目にすることのできない京都町家の坪庭
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近年、京都の町家にスポットライトがあたり、町家レストランやそれを上手く使った施設などが存在し、多くの観光客が訪れるようになりました。
本書は京都を知り尽くした名カメラマンの誉れの高い水野克比古氏が、町家の美を形作る坪庭の写真を撮っているわけですから、ダイレクトにその美しさが伝わってきます。
当然のことながらほとんどが非公開の坪庭ですから、本書のような写真集でしか出会うことができないので、じっくりと眺めています。普段は拝見できない場所だからこそ、本書の値打ちがあるというものです。季節感のある写真が彩りを添えています。音のない静謐な空間の素晴らしさは写真から伺えました。
表紙に使用されている商家の庭の代表ともいえる「紫織庵」は2度ほど訪れています。内部の設えの豪華さと同時に贅を極めた坪庭が往時の繁栄ぶりを伺わせます。「うなぎの寝床」の奥にある奥座敷、土蔵などに囲まれた小宇宙ともいえる坪庭に、京都の豪商は自然を感じ、研ぎ澄まされた美意識をもって愛でたわけです。
つい先日訪れた西陣織工芸美術館の「松翠閣」にもそれは現れており、48ページには表庭しか掲載してありませんが、土蔵前の坪庭も風情のあるものでした。
63ページの料理旅館「幾松」の玄関へと続く露地の打ち水がしてある石畳の光と影、読者も歩みを想定しながら写真を眺めることでその導線の美しさを感じることができるでしょう。
俯瞰した写真や概観、鴨川の床など観光気分でページをめくることで坪庭の素晴らしさを堪能できる本です。
なにしろ全ての写真が水野克比古氏によるものですから、対象物の美を引き出す力は相当なものです。