個性的な物語作者による個性的な物語案内
★★★★☆
フランシス・ホジソン・バーネットの『秘密の花園』は、じつは読んだことがないのだが、梨木香歩氏による案内書であるということで購入してみた。古典的で正統的な教養小説であるらしいこの作品を題材として、この人がどのように思い、言葉を選ぶか、という点に興味があり、原作を知らずとも、あざやかな物語が浮かぶ気がして、これはこれで、とても味わい深い読み物であったと思う。
わたしの読み方は邪道かもしれないが、本書を通じ、物語をどう読みどう感じるか、という点にも、人柄があらわれることを感じた。その、メアリの成長をみまもるまなざしは、梨木作品に登場する主人公たちへの視線と同質のあたたかみに満ちていることを―。また、不思議な生命力を象徴する“ヨークシャのミスル・ムア”を通じ、メアリ(もしくはメアリをめぐる一族)の内的成長をみとどけることで、読者とこの物語とのあいだに、あらたなコラボレーション(協働作業)が生まれてほしいという強い願いも。そしてたぶん、自分が一生読まなかったであろう物語―『秘密の花園』―を、いつか読んでみたい気持ちになれたことは、きっと、本書に出会えた収穫であるのだろうと思う。
文章がとても正確で情景的。こまやかな情感にあふれ、つぶよりで、よりすぐりの美しさが光る言葉たち。気持ちとしては、☆5つつけたいが、原作を読んでいないので、ひとつ減らして4つとさせていただいた。