現代に通用するモダンな小林かいちの全作品
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小林かいちの絵ハガキは一部の熱狂的なマニアに愛されていたほかは、近年まで謎に包まれたデザイナーでした。2007年に本書の初版がでたころは、その生没年も経歴も不明なままで、山田俊幸氏の「はじめに‐謎の『小林かいち』」として、詳しい解説と素性の解明に至らなかったことが書かれています。その後、展覧会が催され、京都新聞に取り上げられ、遺族が名乗り出たのが2008年2月のことです。その経緯は、竹内貴久雄氏の「改訂版の校訂にあたって」で詳しく述べてあります。そうして少しずつ謎のデザイナーの真の姿が浮かび上がってきました。
本書は、そのようなことを踏まえ、初版のタイトルを修正し、コメントを差し替えた改訂版にあたります。159ページに小林かいちの略年譜があり、着物の図案家として生計を立てていながら、27歳の頃に「京都京極さくら井屋」から絵葉書集を発売して人気を博したことが分かります。
本書は残された絵葉書を全て網羅した作品集で、小林かいちの魅力を満喫できるような編集になっていました。
シンプルなデザインなのに、哀愁を感じさせる作品が多く、どこか薄倖な女性のシルエットが大正ロマンというイメージを超えて、現代でも通用する質の高さを誇っています。
儚くも切ない女性美を簡潔な筆遣いで表現する力量があるからこそ現代でも表紙を飾ったり、様々なカヴァーとして使用される所以でしょう。
理屈はともかく、眺めているだけで癒されますし、その抒情豊かな世界に引き込まれます。絵ハガキは基本的に4枚1組の連作になっています。起承転結のあるストーリーも感じられ、時代を超えて愛される普遍性を内在している作品群でした。