Pictures from Italy
★★★☆☆
これも本邦初訳らしい。
"グランドツアー"ってわけでもないだろうが、1844年7月、32歳のディケンズは南仏通ってジェノヴァ〜ヴェネツィア、ピサ、ローマ、ナポリへと旅行に行った。
この紀行文で一番筆がさえてるのが、キリスト教の負の歴史とカトリック批判の箇所だろう。
アヴィニヨンでは、拷問部屋や地下牢を案内され(また、同じ場所でフランス革命の恐怖政治の頃、数々の処刑が自由の名の下に行われたらしいので、さらにディケンズの想像力と恐怖を刺激するわけだが)天の名の下に行われた異端審問と拷問について想像の翼を膨らませる。
また、随所に世俗化したカトリック教会と聖職者への批判、怠惰、インチキ、怠け者ばかりだということがここかしこに現れている。
観察眼のするどさと深さを訳者は褒めているが、イタリアの汚さ、猥雑さへの批判や、芸術作品へのディケンズの評価(ベルニーニは耐え難い失敗作だとする)、随所にみせる割り切った態度を読むと、むしろ痛快なまでの物分りの悪さ、ガンコなまでのブレない常識人ぶりに感嘆させられた。