この書に挙げられたテクニックは確実に計算量の係数を減らしますが、次数を減らせるかというと違うことも多いです。そもそも計算する必要があるのかについては疑問を挟まないスタンスをとっています。
未熟なプログラマ -つまり私のような- は、アルゴリズムの選択を間違えて、データ量の定数倍の時間ですむはずの計算を二乗・三乗にしてしまうとか、そもそもやらなくてもいい計算をやってしまうとか、直視したくない放蕩をやってしまうものです。そんな無駄に気付かせてくれるのは、もっとありふれたアルゴリズムのアンチョコだったりします。Knuth の The Art of Computer Programming まで引っ張り出す必要はありません。高校教科書さえあれば旧帝大に合格できるように、3000円程度の和書をマスターするだけで中級のプログラマになれます。
土台から考え直すときには、むしろ別の本を探す方がいいです。土台を固めた上で最後の無駄を削る、つまり真のハッカーにこの書は役に立ちます。
コードから贅肉を殺ぎ落とす工夫、例えばビット演算をすることによってバッファ変数を用いずに入れ替え(C/C++では不可能だ!)、空いたレジスタに次の演算のための変数を読んでおくことが出来たなら、あるいは秒間数千回ものループのなかで条件分岐を一段削減できたなら・・・
単純な処理であっても、大量のデータを前に真に効率がよいコードを書ける人は少ない。Cの汎用性に馴染んでCPUのマニュアルを見ないどころか、下手したら配列の添え字の割り当て方すら考えていない人のほうが多かったりする現状では、こういう本の存在は貴重で、読まないことは先人の業績に対する冒涜的ですらあろう。
プログラマをアーキテクトに導く、貴重な知恵の宝庫だ。