本書で紹介されている美術品の数々は、いずれも著者が「世界的レベルで一級品である」と判断したものばかりで、必ずしも一般には知られているものばかりではないが、その完成度・表現力には目を見張るものがある。著者の解説とともに美術品を見ていけば、日本美術の新たな魅力を発見できるだろう。
本書のユニークなところは、ありがちな「古寺巡礼」ものと違い、あくまでグローバルな視座で日本美術の価値が論じられているところだ。パルテノン神殿、サン・ピエトロ大聖堂、法隆寺を「世界三大宗教空間」であり、「不思議と似た空間を感じ」ると論じてみたり、古代ギリシャと日本のアルカイズムを比較したりと、新鮮な切り口が提供されている。また、ギリシャ神殿の柱が円柱でかつパルメットを冠していることから「基本的に木でつくりたかったものをやむをえず石でつくった」と述べるなど、著者ならではの視点もおもしろい。
著者は「あとがき」で、「世界の中で日本ほど、その内容のすばらしさに比して知られていない国はない」と嘆いている。同じく世界的な美を有するフランスやイタリア、イギリスに比べ、約10分の1の年間400万人しか観光客が来ない現実を挙げながら、とりわけ奈良が過小評価されていることを強調している。日本の美を見直すためにも、ぜひ一読したい1冊である。(土井英司)