例えばスカンジナビア以前のデューク・ジョーダンと以後のジョーダンでは音楽の質が格段の向上を見せている。これは単にジョーダン自身の成長に限らず、スカンジナビアのリスナー達の鋭い耳のお蔭だと思う。これが極めて顕著なのがチェット・ベーカーだ。
チェットは若かりし頃、『枯葉』や『マイ・ファニー・バレンタイン』を中性的な声で歌っていた時よりも、スティープル・チェイスあたりで出ている『デイ・ブレイク』や『バット・ノット・フォー・ミー』あたりの方が数段素敵だ。渋く悲しくなり無機的にも聴こえるその声は、すべてのボーカリストの中で最高だと僕は思う。