「九のつく歳」――『動機、そして沈黙』所収の短編
★★★★☆
◆「九のつく歳」(西澤保彦)
還暦を迎えるにあたり、二十年に及ぶ亜梨紗との
同棲生活に、ピリオドを打つことにした安河内ミロ。
外科部長を務めている病院を休み、引っ越し
の準備をしていたミロのもとに刑事が訪れる。
なんでも、近所に住む浮田裄範という独居老人が、自宅
で変死体となっているのが発見されたらしいのだが……。
押入れの奥の文箱に入れられていた古めかしい鍵や、同棲記念に買ったという
業務用の巨大な冷蔵庫など、いかにも意味深な道具立てが用いられている本作。
それらを、「幻想探偵」というお題とどう絡め、いかに処理したかが読みどころです。
一旦フェティシズムを経由してからの真相開示という手筋の変化のつけ方には
作者の作家性が如実に反映されており、一見、意味不明なタイトルも、読後は
深く腑に落ちます。
★『動機、そして沈黙』